「文庫X」の今後について考えると、「文庫X」は、ある意味「一発屋」ともいえる。今後、別の本屋の別の書店員が、自分がどうしても読んでほしい本を「文庫Y」として売り出したとしても、今回のようなヒットにはならないだろう。初めての出会いがドラマチックであればあるほど、二番煎じの味は薄くなる。
ただ、この手法は書籍以外の分野でも成功できる可能性がある。
例えば「映画X」として、入場料1000円、2時間ほどの1980年代の外国映画を上映する。「必ず大切な人と見てほしい映画」などと宣伝文句を打つ。少なくとも、上映が始まるまで映画好きな客は、暗がりの座席で「どんな映画が始まるのだろう?」とドキドキしていることだろう。万が一にも、映画がのちに観客にとって一番の作品となれば、その「出会い」は忘れえぬものになるだろう。
すべてを知ることができ、効率化が優先され、煩雑なプロセスを回避される現在。「文庫X」の成功は、わざわざ書店や映画館まで足を運び、ごくわずかな情報しか与えられない中でのアナログな「出会い」が求められていることの証左かもしれない。
<文・安達 夕>
1976年生まれ、40歳。会社員の傍らフリーライターとして活動。