筆者も購入してみた。ビニール包装を破り、ブックカバーをゆっくりと外す。この時点で本好きならば810円の価値がある。タイトルを見ると、「まさか!」と思うようなものだった。本は、読み応えのある興味深い本で、二日で読み切ったのだった。少なくとも、盛岡のいち書店員が、どうしてもこの本を読んでほしいと思ったことには納得できた。「文庫X」の体裁でなければ、書店に平積みしポップで推しても、この本を手に取る人は、今の10分の1もいなかったであろう。
「文庫X」の成功の要因は、3つあると考える。
まず1つ目は、圧倒的なアイキャッチの力。客を立ち止まらせる力。見せないことによって、見たいという欲求を最大限に刺激する。書店という空間において、ありそうで絶対に無かった広告の手法である。
二つ目は、書籍自体の力。本を読んだ大多数の人が、「面白くない」と思ったならこれほどまでに「文庫X」はヒットしなかっただろうし、ネットを媒介にした口コミも広がらなかったであろう。内容自体には賛否両論もあるが、購入者にそれでも810円、もしくはそれ以上の価値があると思わせた書籍の説得力なしにこの成功は語れない。
三つ目は、「出会い」を売ったこと。これこそが、最大のヒットの要因だと考えている。本屋には二種類の客がいる。本屋に入る前から買う本を決めている人。そして、本屋に入っていから決める人。後者は「本との出会い」を求めるタイプ。それでも、タイトルを見て、作者を見て、背表紙のあらすじや、表紙のデザインなどの情報を総合的に判断し、最後は自分が決める。しかしこの「文庫X」は、その前情報すら排除し、「出会い」のドラマチックさだけを追求した。
手のひらの上のスマホの中で、すべてを知ることが出来る高度な情報社会において、この「出会い」は衝撃的ですらある。