現役産業医が見た電通事件、3つの問題点――「残業100時間超えだけが問題ではない」

繰り返された電通(自殺)事件

 大手広告代理店の電通に勤めていた若手社員が昨年12月に自殺した件に関して、直前の残業時間の大幅な増加が原因だったと、三田労働監督基準署(東京)が労災認定したとのニュースが、10月7日の日経新聞に掲載されました。

電通本社ビル photo by Wiiii CC BY-SA 3.0

 その後、このニュースは第2の電通(自殺)事件として世間を賑わせています。その多くは、残業時間が多いこと=過重労働の罪を問うものですが、なかには「100時間程度の残業でうつ病になるとは何事か!」的な論調もあります。  まず、亡くなられた女性社員のご冥福をお祈りします。今回はこの事件で残業時間が注目される背景と、本当に残業時間だけが問題なのかという点について、産業医の立場から述べさせていただきます。  私は産業医として年間1000人の働く人と面談をしています。長時間労働がいいとは考えません。しかし、長時間労働をしつつも、元気に前向きに頑張っている人たちもたくさん知っています。  そのため、私は長時間労働だけが働く人に精神疾患を発症させ、自殺に至らせる原因とは思いません。色々な原因が重なり合い、今回の悲劇になったと思いますが、産業医の立場から、3点を推測したいと思います。

長時間労働だけが問題ではない理由

 まず、1点目として長時間労働だけが精神障害を発症する原因ではありません。その根拠は2つあります。  今年の『過労死等防止白書』で過労死に関わる労災補償の状況をみてみると、残業時間が1か月で80時間を超える人たちばかりに精神障害にかかる労災が認定されているわけではありません。  脳や心臓の疾患の場合は残業時間が1か月で80時間を超えたケースの件数が多いですが、精神障害の場合は労災認定されたケースの約20%は、残業時間が1か月で80時間以下であり、業務による精神障害の発症は、残業時間が短くても十分に起こり得ると考えられます。
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