現役産業医が見た電通事件、3つの問題点――「残業100時間超えだけが問題ではない」

 では、長時間労働以外の何がストレスの原因となり得るのでしょうか。それが2点目になります。

年6万件を超える「いじめ・嫌がらせ」の相談

 電通事件の女性社員は、SNSに「休日返上で作った資料をボロくそに言われた。」と書いてあったようです。このことから、私は電通(少なくともこの社員)においては、新入社員の教育体制・指導体制に、問題があったように推測します。最近の言葉でいうのであれば、指導という名の何らかのハラスメントがあったのではないかということです。  一般的にハラスメントとは、相手を困らせること、嫌がらせと言われています。特に職場においてのハラスメントは、職場内での優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的身体的苦痛を与える行為と考えられています。最近は全国の総合労働相談コーナーへの「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が増加するなど、社会問題として顕在化していると言われています。具体的には、職場での「いじめ・嫌がらせ」に関する相談受付件数は、年間6万6566 件(22.4%)であり、相談内容として最多となっています。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=113702

厚生労働省『個別労働紛争解決制度施行状況』より

 職場でいじめ、嫌がらせなどのハラスメントを受けた人はどのような気持ちになるのでしょうか。多くは、こんなに頑張っているのに、会社で自分が認められていないということに傷つき落ち込みます。これは「認めてもらえていない」という人間が自然ともつ承認欲求の否定です。それが精神的疾患を発症するきっかけになることが多々あります。認めてもらえていないといことが、孤独感を高め、自分の存在価値を必要以上に落としてしまうのです(自己肯定感の低下)。  それが、自分への否定、現状への否定、自殺へつながってしまったのではないでしょうか。この事件に関する本当の事実関係はわかりませんが、長時間労働以外に、このような背景が今回の悲劇の背景にあったのではないかと感じます。
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新たな悲劇を生まないために
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