英国紙『The Guardian』と提携しているスペイン電子紙『
el diario』は、9月5日付で日本政府が英国政府に15ページから成る厳しい警告書簡を送ったことを報じている。同紙が指摘しているのは、<ヨーロッパに進出している日本企業が強く望んでいることは、英国とEUの交渉がどのような展開になるか全く分からないでいる>ということだ。また、この書簡の中で日本政府は<英国がどのようにEUと交渉すべきかということを言っているのではない、日本企業を守る為に言及している>としている。英国では日本企業が<14万人を雇用している>と同紙は指摘した。また、<英国政府はこの警告内容に応えてられるだけの準備は殆ど用意していない>、と述べ、<この書簡が公にされたことに英国政府はショックを受けている>と報じた。メイ首相が望んでいたのは安倍首相が先日の国連総会を利用して、その時にメイ首相に直接伝えることを望んでいたという。
もともとEU残留派だったメイ首相はEUとの交渉をどのように進めて行くべきか、その構想はまだ具体的に明確にされていない。しかし、EU離脱派の閣僚の間では、メイ首相が考えを明確に表明しないことに苛立ちを表明していることもすでに公になっている。離脱派の閣僚の間では、EUとの繋がりは完全に断つという姿勢でいると言われている。
それを懸念してか、英国の格安航空イージージェット航空は本社を英国からヨーロッパ大陸に移転を既に実行に移している。英国の自然派化粧品メーカーで1400人の従業員を抱えるラッシュ社も本社をドイツに移すことを既に実行中である。金融業界ではHSBCは<5000人の従業員の内、1000人をパリに移す>ことを検討している。JPモルガンは<16000人から4000人を他のヨーロッパの都市に配置替えする>予定であるという。(参照『
El Confidencial』)
またBrexitの影響によるポンドの暴落を利用して外国企業が英国企業の買収にも始動が始まっている。ソフトバンクが半導体のメーカーARMを買収したこともそのひとつだ。この買収を見て、
BBCのロリー・セラン・ジョンズ記者は<英国がグローバル・ハイテク企業の構築の希望が消滅することに悲しみを覚える>と述べている。米国のAMCシアターズは英国のオデオン・シネマズを買収した。南アのスタインホフは英国の小売チェーンパウンドランドを買収。メイ首相は英国資本の企業が姿を消して行くのを皮肉にも「英国労働者にとっては良いニュースだ。また英国経済にとっても同様だ」と述べて、「これで、EU離脱も上手く行くようになる」と指摘している。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。