味覚を正確に認識できない子供が30%超。このままでは日本の食文化は崩壊する
「和食」が無形文化遺産に登録され、ミシュランの星の数でも世界一。すしやラーメンを食べるためだけの観光客が欧米からも訪れる。2013年には、農林水産物の海外輸出額も過去最高を記録。官民共同でさらに日本の「食」を世界に展開しようという動きも多い。現在の日本はまぎれもなく、世界有数のグルメ大国だ。
ところがその土台が危うい。先日、東京医科歯科大学の研究グループが発表した調査結果では、基本となる4つの味覚(酸味、塩味、甘味、苦み)のいずれかを認識できない子どもが全体の30%あまりを占めていたという(調査対象は小学1年生~中学2年生)。もし「うまみ」を加えた五味で調査されていたら、この数字はさらに増えていたはずだ。
4つの基本味は歴史的に見ても世界中で認知されてきた味で、子どもの30%以上が基本味を感じ取れないというのは結構な問題だ。といっても、単に食べ手としての”不感症”なら特に問題はない。本人はただ「うまいうまい」と食べていればそれで幸せなのだから。ただし、「食」や「農」を国外に向けて売り物になるレベルの産業として考えているならば、大至急対策が必要だ。
メーカーの開発者だろうと、飲食店のシェフだろうと「食」を作り出す現場で共通する最後のチェックポイントは「官能テスト」――平たく言うと「味見」である。味がわからない人が「食」を作り出すのは非常に難しい。「正解」のイメージが捉えられず、しかも特定の味がわからないとなると、味を構成するロジックも構築できない。イメージ、ロジックが両立してこそ一流の味になるわけで、どちらもなしにまともなものが作れるわけがない。
日本よりも先に「食」を無形文化遺産に登録したフランス(美食術)では9~10歳を対象とした「味覚の授業」というプログラムがある。「味」について考えさせ、「塩」「酢」「チョコレート」「砂糖」を味わい、食材の色、形、匂い、味など食べ物と五感の関係に触れさせる試みだ。
近年、日本でもこのプログラムに「うまみ」を加えた五味の「味覚の授業」が行われるようになった。もっとも昨年授業を受けたのは5803人とまだ実績は少ない。野球やサッカーなどのスポーツを見ても明らかなように、競技人口は国の競技レベルを決める大きな要因だ。味覚についても教育によって”識味率”は向上できるし、すそ野が広がればトップのレベルも上がる。調理実習も悪くはないが、その前に”味見実習”を行うことで、より「食」について効果的な育成が可能となるはずだ。
2020年の東京オリンピックという打ち上げ花火のあと、日本の基幹コンテンツである「食」をいかに継続的、かつ効果的に内外に向けて発信し続けるか。その担い手を育成するシステムの整備は産業としての「食」を維持・発展させるためにも急務である。
<文/松浦達也>
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