【イエメン紛争】内戦の激化で苦境に立たされる人道医療支援団体

増す危険に医師系人道支援団体が撤退

爆撃直後のアブス病院(photo by MSF)

 さらに困難な状況に追い打ちをかけるのが、8月にNGOの「国境なき医師団(MSF)」が北部イエメンハッジャ州とサアダ州で支援していた6軒の病院から撤退し、9月には「世界の医療団(MdM)」も撤退を決めたことだ。  撤退を決めた理由は、病院や診療所が幾度も爆撃されたことによって、今後の患者と医師らスタッフの安全が保障されなくなっているという事情からである。この二つの医療組織の撤退は武力介入を仕掛けたサウジアラビアをリーダー国とする有志連合も残念がっているという。しかし、8月6日に行われた和平協議も失敗に終わり、病院や医療施設が今後攻撃を受けないという保障はないということから両医療組織は撤退を決めたものだ。  MSFは、今回の北部地域からの撤退までは、イエメンで11軒の病院と診療所を直営し、18軒の病院と診療所を支援していた。これまでも数々の攻撃を受けていたが、8月に起きたハッジャ州のアブスの病院が爆撃され19人が死亡、負傷者も多数、また病院建物の3分の2が破壊されるという事態に及んで、MSFはイエメン北部からのスタッフの撤退という苦渋の決断を強いられたという。(参照:「ABC」) 北部イエメンからは撤退したが、現在もMSFは、90人の外国人を含む2000人のスタッフでイエメンでの医療援助活動を継続している。  同様に、MdMも日に日に激しくいなる紛争で空爆も度合いを増していたことから医療スタッフの避難を決めたのであった。  イエメンは人口2800万人の世界で最も貧しい国のひとつ。物資は常に不足している上に、戦争で輸入が困難となり物資の不足はより深刻な状態にある。  そんな中で、武力衝突のない所では、物資の不足で人が死亡するという事態になっている。南西部の都市タイズではMSFが3・4月だけで1700人の診療をしたという。その大半は市民であったそうだ。戦闘員が負傷して傷の手当に来診した時には武器は玄関から中に持ち込まないことをMSFは徹底させているという。(参照:「Europa Press」)
次のページ
両団体撤退後はどうなる?
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会