これまで実体験を持って語れなかった、海外の「現場」を体験できる
イラクを取材中の安田さん
安田さんが「VRが必要だ」と感じたのは、教育現場の先生たちの声を聞いたことがきっかけだったという。
「生徒たちに、ニュースで伝え聞くISのことや紛争のことを聞かれることがあるとのことです。ただ先生自身も報道を通して情報を受け取っているため、実体験を持って語れるわけではないという葛藤があります。子どもたちもいわゆる『イスラム国』という言葉は知っていても、それが人々の暮らしをどれほど脅かし、影を落とし続けるのかを知る機会はそう多くはないのではないかと思います。
ですが、VRを通せば『自分が経験を積む』という形で現場を知ることができます。子どもの頃に訪れた場所や出会った人々のことは、原体験として長く記憶に残ります。映像ができたら、私や実際にNGOで活動するスタッフが教育現場をまわり、VRで現場を体験してもらいながら現地のことを話して伝えていこうと思っています」(同)
ネックなのは資金的な部分だ。VRの撮影には多額の資金が必要となる。
「VRの撮影には通常360度カメラ(googleストリートビューなどで使われているもの)を使用しますが、まだまだ小型のものは画質が低くて実用的ではありません。きちんとした映像を撮ろうとすると、カメラを複数台円形に並べて撮影して、その後合成していくという編集作業が必要になります」(同)
安田さんは、このプロジェクトのためにノンフィクション作家の石井光太さんたちと「セカイ・メディアラボ」という団体を結成した。イラクで活動を続ける
NGO「JIM-NET」の協力も得て、現在はその製作費を集めているところだ。
この途上国VR計画は
Ready For(https://readyfor.jp/projects/sekaimedialabo)というクラウドファンディングのウェブサイトで寄付を募っている。VRの最新技術は、ゲーム以外にも可能性が広がっていきそうだ。
<取材・文/白川徹 写真/安田菜津紀>