バーチャル・リアリティで途上国の現実を「実体験」するプロジェクト

VRの視聴風景(写真はイメージです)

 2016年は最新技術の「VR(バーチャル・リアリティ)元年」と言われている。これまではデバイスが高価なこともあってなかなか手を出しにくかったが、最近では安価な追加部品をスマホに装着することで利用できたり、新型のプレイステーションVRも発売が噂されたりするなど、どんどん身近なものになってきている。  ゲームなどエンターテイメント性が強いイメージのVRだが、その技術を使って戦争や開発途上国の現実を伝えようとチャレンジしている女性がいる。報道番組などでおなじみのフォト・ジャーナリスト、安田菜津紀さんだ。  安田さんはこれまで自分の見た世界を、写真や文章で多くの人々に伝えてきた。それが、VRという手法をとろうとしているのはなぜなのか。

風景の中のどこを見つめるのかを、自分で選んでいける

VRならば、この子供たちのまわりに何があるのか、誰がいるのかも見ることができる

「例えば写真は、撮影者が立っている空間から、カメラのファインダーの枠の中だけを切り取ったもの。撮影者の視点を通して、現地で起きていることを追体験するのが写真です。テレビで放送される映像などもそうです。もちろん、それは悪いことではありません。優れた撮影者を通せば、そこで何が起こっているのかを理解できます。加えてVRを使えば、その風景のどこを見つめるのかを自分で選んでいけます」(安田さん)  具体的にはどんなことができるのだろうか? 「例えば、あなたがVRでイラクの市場の映像を見ているとします。痩せた男の子が露天で物を売っている。その後ろでは誰かが目を光らせている。右を見ればどのような人が道路を歩いていて、どんな顔をしているのかを見ることができる。  昨年、シリアからイラクに逃れてきた難民家族が身を寄せるアパートに、一晩泊めてもらったんです。そこには日本と変わらない生活の厳しさがあり、そして幸せがありました。日本のニュースではISの残虐な行為だけがクローズアップされますが、それはとても一面的な見方です。自分で選択しながら、その現場にあるさまざまな面を見てもらいたいんです」(同)
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