不正会計疑惑に揺れる伊藤忠商事、「商社トップ」の裏に巧みな広報戦略
2016.08.10
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そもそも過去5年間の推移を振り返ると、伊藤忠の純利益はほぼ伸びていないことがわかる。’15年度は前期比で増益を見込んでいたが、他社の減損額が大きいため余裕で純利益トップになれると見るや、急遽追加で自社も減損を出し、減益した。
早めに減損を出しておけば、来期以降で計上する額を減らせて、利益を積み上げやすいからだ。このように、’10年に岡藤社長が代表取締役に就任して以降の伊藤忠は、見せ方が非常にうまい。
前述したとおり純利益はほとんど伸びていないにも関わらず、株価は5年間で3倍弱にまで上昇している。株価は純利益と会社への期待度で決まるが、伊藤忠は後者を引き上げるのに長けている。
昨年1月、当時からチャイナリスクがささやかれつつあったにも関わらず、中国の国有企業にタイの財閥と合弁で1兆円以上もの投資を行って攻めの姿勢を見せた。その後半年間、伊藤忠の株価は上がり続けた。
これについても、伊藤忠の出資分は6000億円ほどだったが、経済メディアにはなぜか”1兆円”という数字が踊った。
このように、近年の伊藤忠はブランディング、PR戦術に非常に長けているといえる。合法の範囲でよく見せるならば問題ないが、今回米国のファンド・グラウカスが指摘しているのは、意図的に減損額を小さく見積もっているのではないかという点だ。
これからのグラウカスの追及と伊藤忠の情報開示により、真相が明らか担っていくのに期待したい。
ところで、本稿をはじめ当連載では、公開情報を読み解くことで企業の意外な実態を知れるということをテーマにしているが、逆に言えば、日本の経済メディアは数字の読み込みが甘く、印象論で企業報道を行うことがたびたびある。証券会社のアナリストなどと違って、記者・デスクに会計知識がないことも多いからだ。
意図的でなくとも経済メディアが企業のPRに加担してしまっている可能性もあると念頭に置いて、ビジネスパーソンは実態をきちんと事実に基づいて見定める必要がある。
<文/大熊将八>
おおくましょうはち○瀧本哲史ゼミ出身。現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok
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