文科省の武道権益を追う――小学校で武道必修化なら費用1兆円!?

小学校武道必修化なら武道場整備費など費用総額は1兆円!?

 小学校武道必修化が実現したとしたら、文科省と武道関係者はまた「武道場整備」と言い出すのは目に見えています。小学生にとって1枚10~15㎏はある柔道畳の上げ下げは危険だからです。そうしたら莫大な費用の問題が発生します。  小学校は全国に2万校以上あります。中学校と違って小学校では過去において選択科目として武道を実施していた経緯はありませんし、部活動として武道を行なってきた実績もありません。現時点で武道場を持っている小学校などほぼ皆無です。そんな全国の小学校に武道場施設を一から作ったら大変な出費になります。  「武道場4500万円+柔道畳400万円+剣道防具・その他教材」で、1校当たり5000万円にもなります。小学校は全国に2万校以上もあるわけですから、ナント、費用総額は「1兆円」になってしまうのです。  武道必修化と武道場整備を無理矢理結び付けようとすると、このようなとんでもない話になってしまうのです。

中学校武道必修化に関する私見・総括

 本稿連載もこれが最後になりました。最後に私見を述べて、この連載を締めくくりたいと思います。  武道場整備費については、文科省自らが費用総額を明らかにするなど説明責任を果たし、その是非について民意を問うべきだと思います。個人的には高額過ぎると思うので、武道館の整備を直ちに中止して体育館で授業を安全に実施できるように工夫して欲しいです。文科省や武道関係者は柔道畳のズレが危険だと言いますが、それを防止する措置(寄せ枠、マット、シート、シール等の市販製品の活用)をきちんとせずに武道場整備を求めるのは筋違いです。  中学校武道授業については、武道の教育的価値は陸上や水泳などと比べても、少なくとも同程度はあると思っていますので、必修として実施すること自体には異存はありません。ただ武道は基礎の習得が非常に難しいため、現行の年平均10時間では少な過ぎると思います。短い時間で不十分な内容を教えても「武道嫌い」を増やすだけです。武道授業をきちんとやるのであれば1種目につき年15時間は必要です。本当は年20時間でも足りないと思いますが、他の教科や単元との時間の配分を考えると、年15時間が精一杯です。15時間やっても教育効果を示すことが出来ないというなら、それはやらない方がましです。  授業内容については、武道授業を道徳授業と混同することなく、教科の本来の目的を達成するよう努力するとともに、もっとコスト意識を持っていただきたいです。また武道必修化の対応を、中体連を中心とする教育関係者に「丸投げ」するのではなく、それぞれの武道団体がもっと主体的に関与すべきだと思います。中学校武道必修化は各武道団体から見れば、千載一遇のチャンスなのですが、ほとんどそのチャンスを生かしているようには思えません。特に競技人口の減少に悩む柔道界にとっては普及促進のラストチャンスと言ってもよいのですが…。  以上が私の意見の総括です。6回に及ぶ長期の連載記事をお読みいただき誠にありがとうございました。  次は日刊SPA!で、リオデジャネイロ五輪にちなんで、「オリンピック柔道面白雑学」を3回にわたって連載します。是非ともお読みください。 <取材・文/磯部晃人(フジテレビ) 写真/Dick Thomas Johnson> 【中学校武道必修化の是非を問う 連載第6回】
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