なぜエースコックの即席麺はベトナムで大人気なのか?――圧倒的シェアの謎

時代の空気を反映した各時代の看板商品、名作即席麺

 さて、上記で述べた通り、1959年の即席麺参入から、これまで多数の商品を開発してきたエースコック、その歴史に触れる上で、時代ごとの象徴的な4つの看板商品、名作即席麺を取り上げてみたいと思います。 ①ワンタンメン(1963年) 「エースコックのワンタンメン♪」のCMの影響もあり、エースコックと言えば、真っ先にこれが浮かぶ人も多そうなワンタンメンは1963年に「即席ワンタンメン」として登場しました。なお、商品名は「ン(運)」が3つも付いて縁起が良いというところに由来します。  元々、ラーメンの一種とも言えるワンタンの食感に着目し、ワンタンとラーメンの2つの麺を同時に噛みしめることで大きな満腹感を得られたワンタンメンは、まだ皆がお腹を空かせていた時代に爆発的なヒットを記録しました。  ちなみに、エースコックのワンタンメンの独特の風味は、松茸フレーバーによるものであり、発売から50年以上経った今も地域によっては販売実績で、同じくロングセラーのチキンラーメンを抜くこともある、看板にふさわしい商品となっています。 ②わかめラーメン(1983年)  70年代に入ると、いよいよ「カップヌードル(日清食品、71年)」や「カップスターサンヨー食品、75年)」といったカップ麺の時代がやってきました。そして80年代に進み、バブルの匂いが漂う頃になると、即席麺業界に更に新たなトレンドが訪れます。それが「中華三昧明星食品、81年)」に代表される高級路線です(ちなみに、中華三昧のキャッチコピー『中国四千年の味』を考えたのは、当時売り出し中の若手だった糸井重里氏)。  最初は売れるわけがないと思われてましたが、さすが時代は80年代、これが予想以上に売れたことで「本中華(ハウス食品、83年)」なども続くことになります。そんな中、70年代のカップ麺の波にも高級路線にもいまいち方向性を見出せていなかったのがエースコックでした。  業績が低迷する中、エースコックはあえてトレンドの高級路線に背を向けて独自の健康路線を模索します。そこで、着目した食材がミネラルや食物繊維を豊富に含む「わかめ」でした。とはいえ、当時、業界内では「わかめの和風のイメージとラーメンは合わない」というのが支配的な意見でした。  しかし、エースコックの商品開発チームは、トレンドの高級食材に頼るのではなく、コクのある魚介エキスのスープと同じく健康食材のゴマを香ばしい直火焙煎タイプしにして、わかめと合わせることで、見事にオリジナリティ溢れる名作「わかめラーメン」を生み出したのです。 ③スーパーカップ1.5(1988年) 「わかめラーメン」のスマッシュヒットこそあったものの、本格的な業績回復には更なる打ち手が必要だったエースコックが、80年代の最後に送り出した起死回生の新商品が、業界初の大盛りカップ麺「スーパーカップ1.5」でした。 「昔と比べて体格が大きくなった若い人達の食欲を満たすには、従来の量では物足りないはずだ」という2代目の現社長の仮説の元、構想から2年かけて実現した「スーパーカップ1.5」はなんと発売から半年で1億食、160億円を売り上げます。  ただ『大盛り』や『デカい』と表現するのではなく、あえて『1.5』という記号的表現を用いた商品名も功を奏し、業界で前代未聞の数字を叩き出したスーパーカップは、これまでの鬱憤を晴らすかのように、翌89年にも立て続けに新作を出し市場に定着、見事に現在に至る人気商品となりました。 ④はるさめヌードル(2002年)&スープはるさめ(2005年)  わかめラーメン、スーパーカップ1.5の大ヒットにより、見事に復活を遂げたエースコック、90年代には再び業績を伸ばしていきますが、2000年代に入ると、今度は世の中のトレンドが生活習慣病対策や低カロリー志向へと向かっていきます。  そこで、お弁当に野菜が足りない、カップ麺ではカロリーが気になるという顧客のニーズに対して、即席麺業界で新たな主戦場として浮上してきたのが「カップスープ」カテゴリでした。  中でも、エースコックの代名詞とも言えるワンタンは、食べ応えとカロリーのバランスを取る必要があるカップスープで、重宝される具材となり、00年には東洋水産から「たまごスープワンタン」日清食品から「とんがらしワンタンスープ」が発売されるなど、各社の商品開発競争が激しさを増していました。  そしてこのトレンドの中、2002年にワンタンメンのエースコックが投入した新商品は、意外にもワンタンではなく「春雨」でした。カップスープではなく「はるさめヌードル」として発売された、はるさめシリーズの、1食70kcalからと低カロリーながら、満足感のあるしっかりとした味は、女性を中心にヒットし、またもや即席麺業界に新しいカテゴリを作り出すことに成功します。  さらに続けて2005年には、姉妹商品として今度はカップスープ「スープはるさめ」シリーズを発売、こちらがまた、ドラッグストア等を有力販路に加え、はるさめヌードルを上回る大ヒット。発売以来10年以上連続でカップスープ部門売上1位を記録する等、現在のエースコックの屋台骨を支える売れ筋商品となりました。
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日本を上回る勢いの即席麺消費のベトナムで圧倒的シェアを獲得
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