リベラルは日本でも復権するか。学者ら、民主に政策提言へ

多彩な属性の人物を閣僚に起用したカナダのジャスティン・トルドー首相 photo by Mohammad Jangda(CC BY-SA 2.0)

 パリの同時多発テロの影響から、フランスでは今、憲法改正論議が進行している。近々オランド大統領が国会に提出する予定の改正案では、「テロ行為で有罪になった重国籍者のフランス国籍を剥奪できる」などの条項が含まれる見込みだ。
(参照:「パリ同時多発テロ1カ月 治安と自由の均衡探るフランス」(2015年12月15日, 朝日新聞)

 この憲法改正案の内容や、テロ事件直後にシリア空爆を決めたオランド大統領の姿勢は、ややもすると日本では「タカ派」として紹介されがちだ。しかし、オランド大統領は、
-「財政危機は消費増税ではなく法人増税で対処する」
-「失業者や若者や身障者などの社会的弱者に対し就職や教育や職業訓練や住宅や社会保障などで優遇する」
-「同性愛者の結婚と養子縁組を許可する」
などの、「10の画期的な政策」や「60の約束」と呼ばれる極めてリベラルな政策を公約として掲げ、2012年に政権を奪取し社会党政権を樹立した。

(参照:「変えるなら今」“le changement c’est maintenant”と題された当時のマニフェスト)※PDF注意

 テロ事件以降、ルペンの国民戦線が台頭したり、日本のメディアでは「右傾化する欧州」の代表例のように扱われるフランスだが、先に見たように、社会党政権であるオランド政権は基本的にリベラルな政権であることには変わりない。そしてこのリベラル陣営が政治のメインストリームを占めるという傾向は、フランスだけではなく、世界の先進資本主義国共通の傾向とも言える。

「Because it’s 2015」と言い切ったカナダのジャスティン・トルドー首相


 カナダでは保守党が野党に転落。中道左派政党の自由党が与党となり10年ぶりに政権交代が実現し43歳のジャスティン・トルドー自由党党首が首相に就任した。30ある新政権の大臣ポストには男女が15人ずつ就任。大臣の顔ぶれも、タリバンの抑圧からカナダに逃れてきたアフガニスタン出身の元難民、先住民運動のリーダー、アフガニスタンで戦闘経験のあるシーク教徒などなど極めて多彩だ。「なぜ多彩なバックグラウンドを持つ人物を起用したりジェンダーバランスを保ったりしたのか」との質問に、トルドー首相は、”Because it’s 2015”「2015年だから」と極めてシンプルかつ明確に答えている。まさに「中道左派」の面目躍如といったところだろう。
(参照:“Because it’s 2015″: Why Justin Trudeau pushed for gender parity in his cabinet 2015年11月5日 VICE News)

ジェンダーバランスに配慮し、雇用政策を公約に掲げたイタリアのマッテオ・レンツィ首相


 イタリアの首相もカナダの首相に負けず劣らず若い。大連立与党の一角であるイタリア民主党の内紛の結果、前任者エリッコ・レッタに辞任を突きつけ、2014年2月に首相に就任したマッテオ・レンツィは今年でわずか40歳。イタリアの新政権も大臣ポストの男女比は5:5とジェンダーバランスに配慮した布陣だ。基本的な政権公約は、深刻な雇用不安にあえぐ若年層に向けた新規雇用の創出や、中小企業に特化した支援策などで、まさに「中道左派」の王道のような政策を掲げている。

「マルキスト」と呼ばれた男が労働党党首になったイギリス


 イギリスでは二大政党の一角・労働党の党首にジェレミー・コービンが選出されたことも記憶に新しい。彼は党内外の政党から「マルキスト」とさえあだ名されてきた急進的な左翼政治家だ。あまりにも急進的であるため無名ですらあった。彼の名前はむしろ身内の労働党幹部たちに「党を引っ掻き回す厄介な老人」として認識されていた節さえある。しかしコービンの訴える「富の再分配を!」「緊縮路線に終止符を!」という愚直なまでの左派政策が労働党の草の根を支える支持者たちに突き刺さり、見事、党首戦に勝利した。二大政党制のイギリスでは野党第1党の党首は「影の内閣の首相」として扱われる。そのため高齢の急進左翼が労働党の党首に就任することは党内外からその能力や技量について不安視する声も上がっていたが、今の所、目立った失敗を犯していない。国会におけるキャメロン首相とのディベートは毎回見ごたえがある。

中道左派のSPDが支えるメルケル首相のドイツ


 ドイツでは、難民問題で足元がぐらつき始めたものの、いまだにメルケル首相による長期政権が盤石のように見える。メルケル政権を支えるのは、ドイツ社会民主党(SPD)との微妙な協調関係だ。SPDはその名の通り中道左派政党。彼らは、「最低賃金制度の導入」「二重国籍制度の容認」「民営化によらないインフラ投資の増大(=積極財政)」などの妥協点をメルケル政権から引き出すことに成功している。

「社会主義」が大統領選候補者選考レースのセールスポイントとなったアメリカ


 アメリカでは2016年の大統領選挙に向けて民主・共和両党の候補者選びが最終盤に差し掛かっている。日本ではその人種差別的発言とヘイトスピーチで「極右の狂った候補」と見られがちな、共和党のドナルドトランプ候補だが、その経済政策は、「累進課税の強化」「富裕層への懲罰的課税」「積極的な財政出動」というもの。おかげで、居並ぶ共和党の候補者の中では極左扱いされている。共和党内の対立候補からトランプ候補に投げかけられる批判の言葉は、もっぱら「トランプは保守ではない」「トランプはリベラルだ」というものだ。
(参照:有権者と候補者のマッチングサイトとして定評のあるCROWDPACによる各候補者のレーティング2016 Presidential Candidates

 民主党の候補者選びでは、ヒラリー・クリントン候補が圧倒的知名度と人気を誇るものの、追走するバーニー・サンダース候補との差をあけきれずにいる。サンダース候補のキャッチフレーズは、ズバリ、「社会主義」。選挙期間中、事あるごとに、社会主義!社会主義!を連呼したために、辞書サイト最大手・Merriam-Websterの集計によると2015年に最も検索された言葉は「社会主義」(Socialism)だという。(参照:‘Socialism’ the most looked-up word of 2015 on Merriam-Webster 2015年12月16日 The Guardian)

 サンダース候補は決して「21世紀になって社会主義かよ。。。」と色物扱いされているわけではない。むしろ、彼がディベートや演説で「社会主義!」を叫ぶたび、会場からは歓声がわき支持者が増えている。

 そして我が日本でも。。。。と繋げたいところだが、そうはいかない。

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