リベラルは日本でも復権するか。学者ら、民主に政策提言へ

G7の中で唯一リベラルが死んだままの日本

 日本で真っ先に「中道左派政党」として思い浮かぶのは民主党だろう。だが民主党は相も変わらず芸のない財政再建路線を捨てきれずにいる。積極的な雇用政策を提唱するわけでもなく、見当違いな「公務員の給与削減」などを目玉政策としてあげる始末だ。給与削減を政策に掲げるリベラル政党など世界のどこを探してないだろう。党名に社民主義を冠する社民党も組織の弱体化が目立ち存在感は絶無に等しい。政党の立ち位置だけではない。言論界においても、「リベラル」や「左派」といった言葉は冷戦時代のコノテーションにはまったままだ。論壇人と呼ばれる人々の論調も、未だに冷戦構造を引きずっているかのような古色蒼然たるものばかりだ。  先に列挙した、フランス カナダ イタリア イギリス ドイツ アメリカの6か国は日本と同じくG7諸国。そのG7諸国で唯一、日本においてのみ、リベラルは政治的に死んだように見える。このまま来夏の参院選を迎えれば、政治勢力としての「リベラル」は完全に死に絶えるだろう。  しかし、この状況に「待った!」の声をあげる人々が現れた。  北田暁大・東京大教授(社会学)や稲葉振一郎・明治学院大教授(経済学)をはじめとする、労働、ジェンダー、福祉や教育、国際関係、歴史などの研究者約40人が参加して発足した「リベラル懇話会」が、それだ。 (参照:「野党第1党、自民と差ない」 学者ら民主に政策提言へ 2015年12月15日 朝日新聞)  15日開かれた記者会見で、北田教授は「野党第1党の民主党に自民党との差が見えない」と総論レベルで危機感をあらわにした。さらにこの危機感は、安保法制反対だけを軸にした野党共闘が進む現状にも及ぶ。だからこそ、あえて、日本では手垢のついた言葉であることを承知しながら、「リベラル」を前面に押し出したのだろう。  記者会見にて清水晶子・東大准教授(フェミニズム/クィア視覚論)によって読み上げられた設立趣意書には、「大きな政府か小さな政府かではなく、薄い社会か厚い社会か」「社会包摂」「OECD諸国の中で少子化問題を改善できたのはフランスとスウェーデンのみ」「アベノミクスで金融緩和と財政出動しながら消費増税するのはブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいる状態だ」「他者をちゃんと尊重した方が、結果的に合理的である」などの、まさに「リベラルのお手本」のような語句が踊る。  ここまで愚直に本寸法のリベラルな諸価値を前面に押し出し、「他に自民党に対抗できるかどうかというと難しい」(清水准教授)と同懇談会が認識する民主党に対し、政策提言を行うというのだ。その姿はいささか、ドン・キホーテじみているかもしれない。  この原稿執筆中の22日、スペインの総選挙でポデモス(PODEMOS)が大躍進したとのニュースが流れた (参照:「スペイン二大政党に転機 連立交渉は新興政党がカギ」 2015年12月22日 東京新聞)  単なる大学教授でしかなかったパブロ・イグレシアスが学生たちとともにPODEMOSを立ち上げたのはわずか7年前。その間、「単なる目立ちたがり屋のリベラルもどき」「反緊縮のポピュリスト」「身の程知らずのドン・キホーテ」と散々悪し様に言われ続けた彼らは、今や、30年間続いたスペインの二大政党制を崩壊させるに至ったのである。  で、あれば。  蟷螂の斧のように見える「リベラル懇談会」にも、一縷の光明があるのではないか? リベラル復権はある意味、世界の先進資本主義国のトレンドですらある。運動論的には拙く弱々しい面は否めないものの、是非とも、「リベラル懇談会」には、「日本のリベラルも終わっちゃいねーよ!」の声を挙げてもらいたいものだ。 <取材・文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)photo by Mohammad Jangdaon flickr (CC BY-SA 2.0)>
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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