「安倍談話」に垣間見える日本会議主要メンバーによる「20年前の意趣返し」――シリーズ【草の根保守の蠢動 第14回】

首相官邸Webサイトより

写真/首相官邸Webサイトより

 昨日、閣議のあと、安倍首相は記者会見を開き、いわゆる「戦後70年談話」(通称・安倍談話)の内容を発表した。 (※全文はこちら⇒首相官邸WEBサイト)  談話発表直後から、海外メディアでは様々な報道が飛び交うようになった。  CNN は “Abe: ‘Profound grief’ for WWII, but Japan can’t keep apologizing”(安倍首相:第二次大戦の被害に対し痛惜の念と、日本が謝罪しつづけることはできないと表明)と題する速報記事で、「安倍首相が自分の言葉で謝罪を述べなかった」「謝罪の主体と対象が不明確である」と今回の談話の「曖昧さ」を指摘している。  また アメリカの国営放送Voice of Americaの論説記事 “ Abe Expresses ‘Deepest Remorse’ on WWII Anniversary”(安倍首相、敗戦記念日に際し“深い痛惜”を表明) でも、一部肯定的に談話を紹介しつつも、「謝罪や反省が直接的でない」「安倍首相自身の言葉がない」とし、「周辺諸国としては受け入れがたいものだ」と70年談話の「曖昧さ」に言及している。  談話を歓迎する論調にせよ、非難する論調にせよ、海外メデイァは一様に「安倍談話の曖昧さ」に首を傾げているようではある。  確かに、安倍談話は、謝罪の対象や主体者がだれであるか判然とはしない言い回しとなっている。  例えば  我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。――との一文。  この一文のいう「先の大戦における行い」が一体なにを具体的に指すのか、明確に判断することができない。また、「痛切な反省と心からのお詫び」を誰に向けて「表明してきました」と言えるのかも、読み取ることはできない。  つまり談話では、「謝罪」「反省」「お詫び」「侵略」「植民地」などの用語は出てくるものの、これらの言葉の主体がはたして誰であるのか、一切、明確に判然としない言い回しにとどめられているのだ。  このことの是非については、ここではおく。  しかしやはりこの連載としては、海外メディアも首をかしげるこの「曖昧さ」「主体性のなさ」は、20年前の「あの圧力」の揺り戻しとも取れることを指摘しておきたい。

20年前の圧力

 今から20年前の1995年。社会党の村山富一を首班とする自社さ連立政権は、社会党からの強い要望により、「あの戦争は侵略戦争であったと明確に認め明確な謝罪を表明する『戦後50年決議』の国会での採択」を画策していた。  この「戦後50年決議」策定に関する舞台裏は、連載第7回で詳しくお伝えしているので是非、ご確認いただきたい。  ここでは概要だけ振り返る。  あの時、椛島有三(日本会議事務総長)をはじめとする「謝罪決議反対派」は、参院幹事長・村上正邦氏を経由し、自民党執行部に決議文から謝罪と反省を取り除くよう圧力をかけていた。  その結果、与党執行部側は、反対運動側の主張を一部呑み、村上正邦氏に次のような文案を最終文案として提示した ------------------------- 「また、世界の近代史上における数々の植民地支配や侵略的行為に思いをいたし、我が国が過去に行った行為や他国民とくにアジアの諸国民に与えた苦痛を認識し、深い反省の念を表明する。」 -------------------------  この表現であれば、植民地支配や侵略行為を「日本が行った」とは言い切っておらず、反対運動側もこの最終文案で合意する。  しかし、その後、プレスに発表された最終文案は次のようなものであった。 ------------------------- 「また、世界の近代史上における数々の植民地支配や侵略的行為に思いをいたし、我が国が過去に行ったこうした行為や他国民とくにアジアの諸国民に与えた苦痛を認識し、深い反省の念を表明する。」(※強調箇所筆者) -------------------------  そう、「こうした」の四文字が付け加えられていたのだ。  つまり、連立与党執行部側は、「こうした」の四文字を挿入することにより「植民地支配や侵略的行為」の主体は「わが国」であると明確に表現することに成功したのだ。  騙し討ちにあった格好の反対運動の運動家たちは「自民党は我々をペテンにかけた!」と怒りをあらわにし、反対運動側と連立与党側の連絡窓口となっていた村上正邦氏を糾弾しだした。なかには、村上氏のネクタイを締め上げるほど激昂したものもいたという。  村上正邦氏はこの難局を「衆院で可決させても参院で可決させない」と反対運動側に約束することで切り抜ける。かくて、「戦後50年決議」は、衆院でのみ可決されるという国会決議としては極めて異例な結末を迎えることとなった。

20年後の意趣返し

 あれから20年。  その間、「50年決議」は「村山談話」「河野談話」「小泉談話」と引き継がれていった。謝罪決議反対運動に従事した人々は、この「50年決議継承の歴史」を、屈辱として捉えていたであろうことは想像に難くない。  彼らにとって屈辱の歴史が続くなか、1997年には「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」は大同団結し、「日本会議」が生まれた。その後も、彼らの運動は、国旗国歌法制定、教育基本法改正、夫婦別姓潰し、皇室典範改正反対運動、 男女共同参画事反対運動などなど。。。と、着実に成果をあげ、「日本会議」としての影響力も誇示できるようになった。  そして、ようやく迎えた戦後70年。  昨日発表された「安倍談話」は、前述のとおり「謝罪も反省も侵略も植民地も、誰が主体なのか全く明確でない」のが特徴だ。  もう、言うまでもないであろう。この「誰が主体であるか全く明確でない」言い回しこそ、20年前、彼らが求めていた文案の方向性そのものではないか。 「50年決議」以降、「侵略や植民地支配の行為主体者が日本であることを明確にする」言い回しは、曲がりなりにも、その後の相次ぐ談話の中で引き継がれてきた。しかし今回、その明確性は胡散霧消した。 「行為主体者が誰であるかを明確にするかしないか」という点では、時計の針が20年逆戻りした観さえある。  そして、時計の針を20年戻したものは、彼ら –一群の人々— による「20年前の意趣返し」であると筆者には思えてならないのだ。 <取材・文/菅野完(TwitterID:@noiehoie)>
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