なぜアメリカ人は真っ青なケーキを平気で食べるのか? その理由がほぼ判明

とてもじゃないがアメリカの食品には食欲のわかない色が多い

 筆者はアメリカに住んで4年になるが、未だにどうしても理解できない現地人の感覚が2つある。  1つは、シェイクにポテトをディップして「美味い」と頬を落とす、その味覚。そしてもう1つは、公共トイレに「蛍光ピンクのハンドソープ」を設置する、その色覚だ。  日本では「衛生」や「安全」を表す色は、緑。それゆえ、公共トイレでは緑色のハンドソープをよく目にし、工場の床なども緑に塗られていることが多い。  こうした先入観を引っ提げ、初めてアメリカのトイレのハンドソープディスペンサーをプッシュした際、「ようこそアメリカへ」と登場した“蛍光ピンク”に、安全どころか危険すら感じた筆者は、出した手を体のもとへ引っ込める結果に相成った。
蛍光ピンクのハンドソープ

アメリカのトイレに設置された、毒々しい蛍光ピンク色のハンドソープ

 このように、国にはそれぞれ独自の色彩感覚がある。  今回は、筆者がアメリカで感じる、日本との「色に対する固定観念や感覚の違い」を多角的に紹介してみたいと思う。  一概には言えないが、日本人には「色の深みや移り変わり」を、アメリカ人には「色の違いや組み合わせ」を好む傾向がある。  日本では江戸時代、幕府が贅沢を禁ずる「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」を発令する中、庶民によって「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」なる繊細な色彩感覚が生み出された。  鼠色や茶色など、限られた地味色の範囲でも、わずかな違いを楽しむ美的センスは、現代の日本人にも、しかと受け継がれている。  一方のアメリカには、多種多様な移民が個人主義のもと生きているため、「私を見ろ」といわんばかりの明るく眩しい色が、街のそこかしこに溢れている。  人気店のディスプレイに並ぶ“蛍光パステル色のカップケーキ”に、「どれにしようかな」と食欲をぶつけるアメリカ人の友人の隣で、茶色い部分を必死に探す筆者の腹中は、胃液を打ったように静まり返る。  こうした「モノの色」に対する固定観念の違いは、他にも多くある。  例えば、日本では「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」の7色と認識される虹は、アメリカでは「赤、オレンジ、黄、緑、青、紫」の6色。国や地域によっては「虹は2色だ」とするところまで存在するから面白い。  太陽においては、日の丸の影響からか、赤で描かれることが多い日本に対し、アメリカの太陽は、黄金色か黄色が一般的だ。  また、色そのものに抱くイメージも、国ごとにずいぶん違う。  日本では、先に紹介した「緑」の「安全」や「清潔」の他に、「赤」には「情熱」、「紫」には「優雅さ」、「青」には「知的さ」といったイメージがなされる。  それに対し、アメリカでは「緑」には「嫉妬」、「赤」には「警戒」、「紫」には「尊敬」や「喪失」、「青」には「卑猥」というワードが並ぶのだ。  文頭で紹介した「ピンク」には、日本では「かわいらしさ」、「甘え」といった印象が強い。そのためか、成人映画のことを「ピンク映画」と表現するなど、“オトナ色”としても使われることがあるが、アメリカでは先に紹介した通り、その役目は「青」。ゆえに、「ピンク映画」も「Blue movie」と表現される。  また、アメリカ人が抱く「ピンク」には、「健康」というイメージもあるため、英語の慣用句「in the pink of health」は、「健康そのもの」と訳されるのだが、初めてこのフレーズを聞いた思春期只中の筆者は、「ピンク」と「ヘルス」のコラボのせいで、これを“やらしさの極み”と勝手に解釈し、人知れず動揺していたことを、今でも時々思い出す。
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日本独自の色彩感覚もまた、外国人を悩ます
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