揺るがないメンタルを作るためのアントニオ猪木の哲学

【石原壮一郎の名言に訊け】~アントニオ猪木の巻

写真/yasuo ogiuchi

Q:学生時代も、ずっといじられキャラでした。何をやっても「お前は天然だなあ」「ホント、馬鹿だよなあ」と言われてばかり。会社に入ってからも変わりません。先輩からも同僚からも、最近は後輩からも、馬鹿にされていじられています。たしかにアニキっぽく振る舞うのは苦手で貫録もありませんが、仕事は真面目にやっているし周囲に迷惑をかけてるなんてこともありません。どうすれば馬鹿にされなくなりますか。(新潟県・25歳・製造業) A:いじられてはいても、いじめられてるわけじゃないですよね。じゃあ、べつにいいんじゃないでしょうか。人それぞれキャラがあって、無理に自分に合わないキャラになろうとしても、あなた自身も周囲も疲れるだけです。基本的に人に好かれるタイプじゃないと「いじられキャラ」にはなれませんから、もっと誇りを持ってみてはどうでしょう。  と、そんなふうに言っても、きっと納得はしてもらえませんよね。あなたは、いじられることを「馬鹿にされている」と感じてしまう。そして自分が「馬鹿にされている」なんて状態は、あってはならないと思っている。その呪縛から解き放たれないと、たとえばあなたが接し方を変えることで周囲の態度が変わったとしても、事あるごとに「また馬鹿にされた」「やっぱり自分は馬鹿にされている」とカリカリすることになりそうです。  本人もきっと「ウジウジした悩み」だということはモヤモヤと自覚しているかと思います。ここはあの人にガツンと言ってもらって、そんなウジウジやモヤモヤを吹き飛ばしてもらいましょう。アントニオ猪木の『馬鹿になれ』という詩集にこんな詩があります。 「馬鹿になれ とことん馬鹿になれ 恥をかけ とことん恥をかけ かいてかいて恥かいて 裸になったら見えてくる 本当の自分が見えてくる 本当の自分も笑ってた それくらい 馬鹿になれ」  あなたが「馬鹿にされたくない」と思っている限り、馬鹿にされたという怒りや悲しみから逃れることはできないでしょう。しかし、最初から「もっと馬鹿になりたい」「もっと恥をかきたい」と思っていれば、周囲がどう扱おうがどうってことありません。見るからに馬鹿っぽく振る舞う必要はないし、仕事で馬鹿なミスをしまくるのは困りますけど、「馬鹿な自分」を受け入れてしまえば、簡単には揺るがない「強さ」を身につけられそうです。  猪木の「馬鹿になれ」という教えは、相談者のようにいじられキャラであることに悩む人だけではなく、「できるビジネスマン」や「尊敬される上司」になろうとして力んでいる人にも有効かも。男性だけでなく、理想のいい女像や理想の妻像、理想の母親像を追い求めて疲れている女性のみなさんにも、きっと救いになるでしょう。私たちは、周囲の無理している人に対しては「もっと肩の力を抜けばいいのに」と思うのに、自分のこととなると肩に力を入れてしまいがち。意識して「馬鹿」を目指すぐらいでちょうどよさそうです。  アントニオ猪木は「ちっちゃなケンカをするたびにスケールが小さくなる」とも言っています。馬鹿にされただの何だのと周囲を敵視するような、そういう「ちっちゃなケンカ」をしている場合ではありません。自分を相手に、とことん馬鹿になってとことん恥をかくという壮大な闘いに挑みましょう。スケールの大きい馬鹿になれたら、誰もあなたを馬鹿にしなくなるはずです。1、2、3、ダァー!

【今回の大人メソッド】

されたくないと思うほどされてしまうのが常 「馬鹿にされる」「侮られる」「軽く見られる」など、いろんな「されたくないこと」があります。しかし、相手が自分をどう扱うかは、自分ではコントロールできません。往々にして「されたくない」と思えば思うほど、そうされがち。「やりたいならやってくれ」と開き直ったほうが、されないようになるかも。少なくとも、いちいちカリカリせずに済みます。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス) <写真/yasuo ogiuchi