ユングの教え――同僚に対する嫉妬心に打ち勝つ方法

【石原壮一郎の名言に訊け】~ユングの巻

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Q:ウチの会社にも何人かの新入社員が入ってきた。なかなか見どころのあるヤツらだ。俺としては厳しく育てたいと思って、言うべきことはビシビシ言うようにしている。ところが、同僚のKはご機嫌取りに余念がない。新入社員たちも当然そのほうが嬉しいから、俺よりもKのことを慕っている。俺は俺なりにヤツらのことを考えているのに……。Kも新入社員のヤツらも、ムカついてたまらない。(兵庫県・27歳・営業) A:春っぽいご相談ありがとうございます。これまでは喫茶「いしはら」のお客さんを引っ張り出してきて強引に答えてもらっていましたが、なんかそれが嫌がられたのか、だんだん常連さんが寄り付かなくなってきました。しばらくはマスターである私が自分で答えることにします。ストレートな物言いしかできませんが、よろしくお願いします。  Kさんにムカついているあなたは、要するにKさんがうらやましいんですよね。いや、「そうじゃない!」とムキになって反論なさるでしょうけど、けっして責めているわけじゃありません。そりゃ、後輩には慕われたほうが嬉しいに決まってます。だけどあなたは、Kさんがうらやましいことを認めるのはプライドが許さないから、Kさんのやり方が気に食わないからムカついていると、自分に言い聞かせているわけですよね。  ユングという心理学者をご存知ですか。深層心理の研究で有名な人です。彼は、あなたのように苛立っている人に対してこんなことを言っています。 「他人に対して苛立ちを感じたときは、自分自身について知る良い機会だと思え」  後輩に慕われているKさんに苛立っているあなたは、本当は何に苛立っているのでしょう。もしかしたら、後輩に慕ってもらえない自分に対してかもしれません。それを認めたくないから、厳しく接して「嫌われても当たり前」という言い訳をあらかじめて作っているのかもしれません。いや、すべて勝手な想像ですけど。  人それぞれタイプがありますから、後輩に慕われなくてもべつにいいじゃないですか。「Kのヤツ、さすがだなあ」と涼しい顔をしていれば済むことです。でも、あなたは苛立ってしまう。私の勝手な想像が大ハズレだったとしても、苛立ちの原因となっている何かは、Kさんではなくあなたの中にあると思っていいでしょう。  誰かに激しく苛立ったり誰かを激しく嫌ったりしている人は、ほぼ例外なく、自分の側に理由があって「自分にとっての必要性」を満たすためにそうしています。勝手に責められている気分になったり、勝手にコンプレックスを逆なでされていたり、相手の欠点を憎むことで自信のなさや不安をごまかしていたり……。ユングの言うように、「自分自身について知る良い機会」だと思って、胸に手を当てながらじっくり考えてみましょう。  ユングは「人生の濁流に身を投じている限り、障害がないという人間はいない」とも言っています。時おりみっともない感情を抱いてしまうのは、なんせ人生の濁流に身を投じている最中なんですから仕方ありません。自分のイヤな部分に目を向けることを怖れすぎると、別の理由を探してきたり、誰かのアラを探して苛立ったりする羽目になるのがオチ。そっちのほうがよっぽど厄介な状況です。「自分は自分」ということで開き直りましょう。 【今回の大人メソッド】

イヤな部分やダメな部分も含めて自分を認めよう

理想の自分と現実の自分との間には、大きなギャップがあります。人は他人のアラ探しをして苛立つことで、自分のイヤな部分やダメな部分から目をそらそうとしがち。しかし、そんなことをしてもギャップは埋まりません。全部含めて自分を認めてあげるのが、ギャップを少しずつ埋める第一歩であり、胸を張って生きていくための大人の覚悟です。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス) <写真/turrido50