理解できない上司の方針に反論すべきか?――今だからこそ、清原和博の言葉が胸に響く

【石原壮一郎の名言に訊け】~清原和博の巻 Q:直属の上司である課長は、悪い人ではないのですが、ややピントがずれていて指示も曖昧です。お客様のことを考えるより、部長やさらにその上の人たちの顔色を気にする傾向もあります。不満やストレスがたまる一方ですが、たまには自分の意見をぶつけたほうがいいんでしょうか。でも、ヘソを曲げられるのも厄介だし……。とりあえずは、黙って従っておくのが無難なんでしょうか。日々、迷っています。(東京都・27歳・営業) デスクA:それはストレスがたまりそうですね。世の中には、こういうタイプの上司は少なくなさそうですが。あっ、喫茶「いしはら」に、頼もしい方が入ってきました。町内で「番長」と呼ばれている野球好きのクワハラさんです。会社の上司とすぐケンカして何度もクビになっているクワハラさんとしては、この相談、どう思いますか。  ワイや、クワハラや。なんやて、上司に意見を言うか黙って従っておくか、やて。アホなこと聞くな! そんなん、言うたほうがええに決まっとるやないか。お前は上司のことを「上の顔色を気にする傾向も」とか言うて批判しとるけど、そう言うお前はなんや! ちょっと意見を言う程度のことで上司の顔色を気にして、ウジウジしとるやないか。  まあ、無理もない話やけどな。会社の中におると、骨の髄までサラリーマン根性がしみついてくるもんや。かつてのワイの同僚も、酒飲んどるときは勇ましいこと言うくせに、上司の前ではヘコヘコするようなヤツばっかりやった。俺は、それができへんかったから、いろんな会社を渡り歩くことになったんやけどな。いや、それだけが理由と違うか。  それはそうと、清原はんの逮捕は残念やったなあ。昔から大ファンでずっと応援しとったのに、なにをやってくれとるんや、まったく。たしかに、あの人はとんでもないことをやった。そやけど、甲子園球場の歴史館に展示されとった清原はんのバットやユニフォームを撤去するんは、おかしいんと違うか。罪を憎んでバットを憎まずやろ。子どもの教育に悪いって言うけど、人生の複雑さや難しさやクスリの怖さを教える何よりの教材と違うんか。  言葉かってそうや。メッセージの中身に罪はない。それに「そっか、こんなことを言うてたんか……」とシミジミした気持ちにもなってほしいから、あえて清原はんの言葉を借りてアドバイスしようと思う。ええか、よう聞けや。 「俺は物事を決断するとき、どの道を選んだら一番後悔せずに納得できるかを考える」  どや、味わい深いやろ。上司にヘソを曲げられるんと毎日ウジウジ過ごすのと、お前にとってどっちが後悔が大きいんや。カッコつけんと、自分の胸にを手当てて考えてみるんやな。清原はんは、こんなことも言うてるで。「打ったら拝まれる。三振やったらどやされる。振らなきゃどっちもない」。ワイなら、三振してもいいから、上司の前でバットを振ってみるけどな。えっ、振らなかったら見逃し三振やて? 細かいこと言うな! 「夢は逃げない。自分が夢から逃げるだけ」っていう言葉も、今となっては涙なしでは読めんなあ。サラリーマンのヤツらは何かというと「サラリーマンだから仕方ないんだよ」てなことを口にするけど、清原はんの言葉を借りるなら「誰もサラリーマン根性に染まれとは言うてない。お前がサラリーマン根性に染まりたいだけや」ってことやな。おっと、あんまり借りてないか。とにかく、ぶつけてぶつけて、ぶつけまくったらええやないか。東尾はんも、きっとそう言うで。大丈夫や。お前がビクビクしとるほど怖いことは起こらんから。 【今回の大人メソッド】

人間は言行不一致だけど、それもまたよし

けっして「あらら、昔はこんなに立派なことを言っていたのに」と、半笑いで揶揄する意図で清原の言葉を取り上げたわけではありません。発言と行動が一致しないのが人間であり、そういうことも含めて受け止めさせてもらうのが、名言に対する大人の貪欲さであり謙虚さです。少なくとも言葉を口にしたときは、本人は本気でそう思っていたわけだし。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
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