「田舎で仕事しているのがツマらない」という悩みにつけるクスリ

【石原壮一郎の名言に訊け】~蛭子能収の巻 Q:地方の小さな問屋で働いています。しかし、やっている仕事は、決まりきった得意先に決まりきった商品を流すだけ。半年、いや3カ月で飽きました。こんなことをあと何十年も続けるなんて、耐えられません。もっと自分が輝く仕事がしたい。そのためには、やっぱり東京に行くしかないのでしょうか。苦労してもかまいません。東京でもまれて自分の可能性を広げてみたいと考えています。どう思いますか?(富山県・24歳・流通) 東京タワーA:おお、元気のいい若者ですね。今日の喫茶「いしはら」のカウンターには、元気のなさでは誰にも負けない自称漫画家の毘沙門天先生が座ってらっしゃいます。「煩わしい飲みの誘いの正しい断り方」のときもお世話になりましたね。先生も地方から上京して漫画家におなりになったと伺っていますが、この若者は、どうすればいいんでしょう。  勘弁してよ。俺、こういうやる気があって前向きな若者って苦手なんだよね。「どう思いますか?」って、何を言ってほしいのかなあ。「そのとおり、東京は夢であふれている!さあ、今すぐ東京へ!」てな感じで、背中を押してほしいのかなあ。知らねえよ。やりたいようにやればいいじゃん。輝きたいなら、スキンヘッドにでもすりゃいいじゃん。  俺の尊敬する漫画家の蛭子能収さんが、『蛭子能収のゆるゆる人生相談』(光文社)っていう本の中で、ミュージシャン志望で夢をかなえるために東京に行きたいって言っている高校生の相談に、こんなふうに答えてるんだよね。 「東京には夢なんてないですよ。(中略)夢を追いかけて東京に来てもどうせ失敗しますよ。今の環境でギリギリまで耐えて、最後の最後で実家とか田舎から逃げればいいんですが、我慢もしないで東京に行ってもだめじゃないですかね」  どうだい、この身もフタもなさ。この若者もたぶん、まだギリギリじゃないんだよね。誰にどう言われようと、田舎に見切りをつけて東京に来るやつは来る。ただし、来ればどうにかなるってものでもない。東京にしかないチャンスをつかむやつもいれば、つかめずに田舎に戻るやつもたくさんいるんだよな。えっ、俺はチャンスをつかめたのかって?これからだよ、これからつかむんだよ。  そうそう、蛭子さんは同じ本の中で、こんなことも言ってるぜ。「仕事でやりがいや生きがいを見つけようとするのが間違い。(中略)仕事で輝くという人生は変。人は、競艇場で輝くために働くんです」。これもまあ、ひとつの真理だな。仕事は大事だけど、いろんなものをそこに背負わせると暑苦しくてイビツなことになっちゃう。まあ、この若者に限らず、夢や自己実現という名の欲の皮が突っ張ってるヤツらには、ピンと来ないと思うけど。  若いんだからさあ、とりあえず上京すりゃいいんじゃないの。田舎にいたってつまんないんだろ。今の環境で、できることをがんばろうって気もないんだろ。挫折したり踏みつけられたりガッカリしたりしたとしても、それはそれで勉強になるしな。保証とか誰かの後押しとか、そういうのを欲しがってウジウジ言ってるのが、いちばんみっともないぜ。 【今回の大人メソッド】

東京にも仕事にも過剰な期待は禁物である

 東京などの都会には、たしかにいろんなチャンスや可能性があります。しかし、田舎にだって田舎にしかないチャンスや可能性があるはず。そして、仕事によって(お金以外に)得られるものもたくさんあるし、いっぽうで失うものもたくさんあります。いずれにせよ過剰な期待はたぶん現実逃避だし、持ち味やメリットをつかみ損ねることになるでしょう。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
蛭子能収のゆるゆる人生相談

建て前だらけの世の中に、疲れ果てたらこの一冊! 「きれいごと、ゼロ。」の人生相談本。