脱原発・再エネ推進で「企業が国外に移転する」という大嘘のカラクリを暴く

ドイツを引き合いにした「再エネ推進」の誤解

「再生可能エネルギーを推進すれば、電気代が高騰し、企業が国外に逃げていく」「再エネ推進」を批判する日本メディアの報道などによくみられる主張だ。  そして、この時に必ずといっていいほど引き合いに出されるのが「ドイツの事例」。 「再エネの比率を上げたことでドイツの電気料金が高騰し、それを嫌って国外に移転した企業が、チェコなど外国で安い原発や石炭を使った電力を使っている。だから、ドイツ国内でいくら再エネが増えても『グリーン経済』にはつながらない」というもので、この動きを「グリーンパラドックス」と名づけ、ドイツの矛盾を指摘している。※「グリーン経済」とは、環境や生活の質を向上しつつ、経済成長も達成していくこと。  しかし、このような報道はいくつもの誤解に基づいている。まず企業が国外に移転する理由にはさまざまなものがあり、支出の一部に過ぎない電気代だけを理由に移転するような企業はほとんどないからだ。少なくともドイツ連邦経済エネルギー省は「電気料金高騰によって雇用や移転などの影響が出た企業があるとは把握していない」と発表している。  さらに、電力を多く消費する大企業は「電気料金が高くなると国際競争に勝てない」との理由から、再エネ賦課金の減免措置を受けている。減免を受ける企業は年々増え続け、現在は2180社にもなっている。そのため大抵の場合は「電気代のために外国に移転する」必要はないのだ。

ドイツ企業の大きな流れは「再エネは儲かる」

⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=79941

産業用電気料金(赤)は安く、家庭用電気料金(黒)は高い。(各種税込みの料金)その差額は年々広がっている。

 もちろん、問題がないわけではない。再エネ賦課金で再エネ設備を設置した結果、発電事業者の発電コストは下がっている。「大企業の多くは安いコストを享受しながら、負担するべき再エネ賦課金を支払っていない」という批判がある。そして大企業を優遇して賦課金を減免した結果、負担が増えるのは一般家庭や中小企業だ。ドイツの一般家庭が消費する電力量は全体の4分の1程度にもかかわらず、再エネ賦課金総額の35%を負担させられている。「大企業にも公平に負担をさせ、その分家庭用電気料金を下げるべきだ」という議論が出てくるのも当然だろう。 ⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=79946

再エネ賦課金額の推移(黒)と企業の減免処置を差し引いた場合の賦課金推計額(赤)。いかに企業が優遇されているかがわかる。(ドイツ連邦経済・輸出管理局(BAFA)2014&2015"Hintergrundinformationen zur Besonderen

 しかし、その問題と「再エネ推進のために電気代が上がり、大企業が国外に出て行く」という単純で一面的なストーリーを伝えることとはまるで違う。ドイツ国内でも再エネに反対する勢力が一部存在し、賦課金の件などを指摘して再エネ優先の政策に対するネガティブキャンペーンを行っている。  それでもドイツの大きな流れは変わらない。ヨーロッパ有数の大手電力会社であるエーオン(本社ドイツ)は、2014年12月、採算の合わない火力・原子力部門の分社化を宣言し、再エネ推進に本格的に舵を切った。経済的にも「再エネは儲かる」という認識は一般化してきている。再エネ賦課金は、その設備を増やすための一時的な投資にすぎない。その方向性を見誤り、目先の金額だけで「ドイツの脱原発政策は失敗した」などと判断しない方が良いだろう。 (データ提供:自然エネルギー財団一柳絵美研究員) <取材・文・写真/高橋真樹 著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など>
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)。昨年末にはハーバービジネスオンラインeブック選書第1弾として『「寒い住まい」が命を奪う~ヒートショック、高血圧を防ぐには~』を上梓
ご当地電力はじめました! (岩波ジュニア新書)

地域の電力は自分たちでつくる! 「おひさまの町」飯田市、上田市の屋根借りソーラー、岐阜県いとしろの小水力、福島県会津地方で発電事業を進める会津電力、東京多摩市で活動する多摩電力、北海道から広がる市民風車。各地でさまざまな工夫をこらして、市民主導の「ご当地電力」が力強く動き出しています。