装着型歩行支援ロボットが高齢化社会を変える?

 医療や介護分野で使用されるロボットの市場は広がっている。2035年には10兆円規模になるとも言われ、さまざまな研究・開発が進行中だ。介護ロボットは高齢者や介護の支援に適した機械システムを指し、医療現場で利用されている。介護ロボットには介助者の精神的なサポートをする「コミュニケーション型ロボット」や食事や入浴を支援する「生活介助型ロボット」などがあり、さらなる今後の展開が期待される。

1999年の研究着手から17年目にして念願の実用化

 本田技研工業が開発した歩行支援ロボットHonda歩行アシストは、要介助者の下肢の運動能力の援助を目的とした装着型ロボットだ。2015年10月14日に国際安全規格ISO13482を取得し、同年11月に実用化した。  研究がスタートした1999年の時点で、日本は世界でも1、2を争う高齢化率がすでに問題として浮上していた。10年後の2009年には65歳以上が21%を突破する“超高齢化社会”を迎え、介護現場のさらなる負担が予想される中、研究はスタートした。 「歩行が困難になった高齢者は、歩くのがおっくうになりやすい。歩行習慣がなくなると、筋力低下が進み、車椅子生活や寝たきりに移行するケースも多い。高齢者が介助者の手を借りない生活を維持するには、歩行の再建は欠かせないと考えました」(Honda歩行アシスト開発責任者・伊藤寿弘氏)

開発責任者の伊藤寿弘氏

 歩行アシストは、歩行を良くする“歩容(ほよう)”の訓練を目的としている。歩容とは、見た目から歩行という運動の身体的な情報を得るもの。歩行時の足の運びや重心の左右対称性などを調整し、補助する力は使用者自身の力の5%程度だ。現在、歩行をサポートするロボットは、モーターの力が強いCYBERDYNE社のHALや、今仙技術研究所が製造販売しているモーターレスのACSIVEなどが実用化されている。歩行アシストは低下した脚力のサポートだけでなく、使用者の歩行の改善を目指す。 「歩行アシストはその人の歩行の動きを計測し、足の蹴る力や屈曲の力の補助とタイミングを補正します。たとえば歩くときに足を床にすってしまう高齢者の場合、身体に負担の少ない動きに誘導された訓練を続けることで、足の上がった動作が身に付き歩けるようになります。内蔵されたコンピュータには見本となる歩行モデルがインプットされており、歩くピッチや左右の脚力のずれを調整していきます」  目標は理想的な歩行モデルを装着者の体に覚えさせ、自力で歩行できるようにすること。実際、リハビリ中の患者が訓練後、支援ロボットを外して歩行すると、装着時に調整された下肢の動きに近い状態になり、装着前に困難だった歩行がリズム感の良い楽な動きに改善されている。  歩行アシストは、脳卒中による麻痺などのリハビリにも導入されている。 「歩行訓練を繰り返すと、脳から筋肉にいく信号が強くなっていきます。神経系に障害があり、足を動かすことができない人は、信号の伝達が強くなれば、麻痺した足の回復につながる。歩行アシストを装着して訓練することで、麻痺する以前の歩行の動きを繰り返し患者の身体に定着させ、身に付けていきます」  従来の歩容リハビリでは、トレーニングの内容を口頭で伝えていた。装着型ロボットの導入はリハビリメニューの改善にも一役買っている。 「訓練の結果は、内蔵されたコンピュータに記録され、訓練方針の策定などに役立てています。片麻痺の人は、麻痺したほうの脚の感覚がありません。過去のデータと比較して改善されていることを実感すれば、モチベーションも上がります」  歩行アシストは2010年に50の医療施設にリースされ、患者や理学療法士からの要望を聞きながら改良を加えてきた。とりわけ片麻痺の人は、高齢者とは症状が違うため、最適化した制御の調整が必要だったという。

医療施設等への月間リース料金は4万5000円(年1回の保守点検と2名までの機器 操作講習費用含む)

「車の歴史は乗用車に始まり、トラックや軽自動車など、ユーザーの目的に合わせて多様な車種が開発されてきました。歩行アシストもさまざまな症状をサポートできるよう、展開していきたいと考えています。装着型ロボットは、使う人でなければ分からない料理の塩加減のような微調整が必要です。今後も医療現場と連携しながら、意見を開発に反映させていきます」  高齢になると日常的に歩行補助器が必要になることがあるが、訓練次第では自力歩行ができるケースもある。歩く力が回復すれば生活圏が広がり、外出する機会が増える。結果、自然と脚の筋肉がつくという好循環も望めるという。  下肢の運動麻痺になった患者は、再び自分の足で歩行したいという希望が強い。歩行支援ロボットを装着することでリハビリの効果は格段に上がっている。自立を目的とした介護ロボットの存在は、歩行の再建を望む患者の未来を明るく照らすに違いない。<取材・文/石水典子