「脱原発・再エネ推進のドイツは電気代が上がって大変」のウソ
日本では、脱原発を進めるドイツのエネルギー事情について一面が誇張されて伝えられることが多い。「ドイツでは再生可能エネルギー導入のために電気代が上昇し、市民生活に支障が出ている」という報道もそのひとつだ。
この15年間、ドイツで電気代が上昇したのは確かだが、その理由は単純なものではなく「再エネだけが原因」とは言えない。ドイツの家庭用電気料金は半分以上(52.0%)が税金等で、再エネ導入に使われる「再エネ賦課金」(21.5%)を含め、日本の消費税に相当する付加価値税(16.0%)やその他の税金が適用されている。
ドイツの家庭用電気料金に適応される付加価値税率は、19%となっている。そのような付加価値税などの税金は他の物価にも適用されていることに加え、経済的な要因によって10年単位で見れば、電気料金以外の物価は多くのものが値上がりしている。
また家庭用電気料金は、2015年には15年ぶりに下落している。再エネ賦課金額も2013年からの3年間は安定しており、やはり2015年には下落した。これは今後も引き続き、電気代が右肩上がりに増え続けるわけではないことを示している。
再エネ賦課金の価格に関する世論調査の結果でも、さまざま意見はある中で、妥当(57%)や低すぎる(6%)という意見の合計(63%)は、高すぎる(31%)という意見を大きく上回り、市民がおおむね政策を支持していることを示している。
全体的に物価が上がっても直接的な不満につながりにくい背景には、ドイツ経済が好調で、GDPが拡大してきたからだ。個人消費支出に占める電気料金の割合が、6年間(2009~2014年)で、2%代前半という一定の水準であることからもそれは明らかだ。つまりドイツ経済全体で見れば、決して電気料金の値上がりだけが突出して高いわけではないことになる。
ここで考えなければならないのは、再エネ賦課金というのは、単に一時的に電気代を上げたということではなく、再エネ設備を増やすために意図的に投資されてきたものであることだ。ドイツではそれが、雇用の創出やCO2の削減、エネルギーの国外依存からの脱却などへの効果に結びついてきている。また、再エネの普及によって発電コストそのものは下がってきている。
例えば、ドイツのCO2排出量は1990年比で23.9%減少している。また脱原発を実施した発電部門だけに限っても、15.8%減少している(いずれも2014年のデータ)。一方、日本は1990年比で13.5%増えている(2013年のデータ)。
一見すると高騰しているように見える再エネ賦課金は、家計の支出の中ではごくわずかだ。日本のメディアはその数値だけを大きく見せて批判するのではなく、経済全体の動きの中で評価すべきだろう。そしてこの世界に先駆けて「エネルギー転換(Energiewende)」という新しいチャレンジに踏み切ったドイツは、CO2排出削減を達成しながら経済成長を続けている。どこかの国の政治家には、「脱原発すると経済成長ができない」などと考えている人が多いが、ぜひ参考にしてもらいたい。
(データ提供:自然エネルギー財団 一柳絵美研究員)
<取材・文・写真/高橋真樹 著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など>
電気料金高騰は再エネのせい?
市民はおおむね「脱原発・再エネ推進」を支持
CO2排出削減を達成しながら経済成長を続ける
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)。昨年末にはハーバービジネスオンラインeブック選書第1弾として『「寒い住まい」が命を奪う~ヒートショック、高血圧を防ぐには~』を上梓
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