ZARAの商品を世界一高値で掴まされているアルゼンチン国民。新政権の経済政策で変わるか?
ニューヨーク・タイムズ』も米国政府が同国との関係強化を切望している内容を報じた。
マクリ新大統領の最初の訪問先は経済的に一番関係の深いブラジルと決められている。そして、ヨーロッパでは最初の訪問国はスペインで、その前衛として11月29日にマルガーリョ外相はマクリ氏とブエノスアイレスで会談をもった。
マクリ新大統領が改革の重要課題のひとつとしているのがペソとドルの二重レート「公定レート」「実勢レート」の統一化である。
アルゼンチンは経済成長していた1992年にシリア移民2世のメネム大統領(当時)はインフレ抑制を望んでドルペッグ制を採用して「米1ドル=1ペソ」とした。自国の外貨保有高を越えない範囲で自国通貨を発行するというものだ。この政策によってインフレを一定の枠内に収め、ペソの国際的信用力をつけようという狙いがあった。しかし、元々インフレ体質の国で、しかも1990年代後半になると景気低迷からデフレ現象が起きると、米ドルと連動しての為替レートの維持は非常に難しくなった。ついに、2001年12月に債務不履行に陥って、ドルペッグ制を廃止した。その反動で急激なインフレが起きたが、翌年の後半から経済は鎮静化に向かった。特に、アルゼンチンの経済回復に貢献したのが通貨の切下げによって輸出が伸びたことである。
クリスチーナ・フェルナンデス現大統領の政権下の後半になるとまた経済は悪化。資本の国外流出を避ける為に管理フロート制を採用した。この時点から2001年に廃止したドルペッグ制のあとに誕生した「公定レート」と「実勢レート」の二重相場制の存在が見直されるようになった。そして2014年から市民が外貨を購入出来るようになると、「実勢レート」は「メルカド・ネグロ(Black Market)」と呼ばれて市場経済の二重化を促進させた。勿論、商業取引でも適用されるのは「実勢レート」である。
「実勢レート」と「公式レート」の対ドルの差はおよそ50%だという。この差額の被害をアルゼンチンの消費者がどれほど受けているかということを証明すべく、アルゼンチン経済紙『iProfesional』は世界のZARAの小売価格を比較したデーターを発表した。ZARAが選ばれた理由は世界90か国に進出して同じ品質の商品を販売しているため比較の軸にするのに最適だからだ。その比較の対象として選ばれた商品はシャツとジーンズだ。それによると、世界で最も高い買物をしているのがアルゼンチンの消費者だということがわかった。
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例えば、スペインで11ドルのシャツが、日本では16ドル、アルゼンチンでは22ドルで販売されているという。またジーンズの場合はスペインは22ドル、日本は40ドル、アルゼンチンは61ドルという販売価格になっているという。しかし、これが仮に「公定レート」で計算されると、アルゼンチンは世界で最も競争力のある価格で販売している国のグループに並ぶことになるという。
マクリ新大統領はこの二重レートを一本化して行くことを経済政策の重要課題としている。その為にはペソが実質価値よりも高く評価されている「公定レート」を調整し、フェルナンデス大統領政権下で70%後退した輸出競争力を取り戻す必要がある。その為にも貨幣の切下げは必至だと言われている。しかし、来年のインフレは34%と予想されており、貨幣の切下げによって更なるインフレの上昇を避けねばならない。マクリ大統領は非常に難しい判断を迫られることになる。
<文/白石和幸 photo by Quim Pagans on flickr(CC BY 2.0) >
12月10日にアルゼンチンの大統領に就任するマウリシオ・マクリ氏への期待は内外で非常に強いものがあり、11月27日には米紙『しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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