米国スポーツ界も激震! これはゲームか違法賭博か?

大手ファンタジースポーツの一角、「Fanduel」

 日本球界は野球賭博スキャンダルで揺れたが、米国でも今、プロスポーツ界に賭博問題が浮上し激震が走っている。ここ数年で大きな人気を呼び巨大ビジネスに成長した「ファンタジー・スポーツ」のゲームが違法賭博に当たるかどうか、法廷で争われる事態になっているのだ。  ファンタジー・スポーツとは、実際のプロスポーツリーグから好きな選手を選んで自分のチームを作り、保有する選手の成績によって他の参加者と争うゲームで、インターネットで手軽に楽しむことができる。NFLならファンタジー・フットボール、MLBならファンタジー・ベースボールと呼ばれ、最近はプロリーグとタイアップを行うこともあり、今や米プロスポーツとは切っても切れない存在になっている。プレー人口は現在、米国内だけで3000万人を超え、今年は業界全体で37億ドルの収益を上げるだろうともいわれている。  ファンタジー・スポーツの中には年間を通じて競うものもあるが、問題視されているのは「デイリー・ファンタジー・スポーツ」で、これは一週間など短い期間を区切って争うもの。週ごとに新たなチームを作り、プレイヤーはその都度参加費を払って「コンテスト」と呼ばれるゲームに参戦する。成績が良ければ賞金が得られるが、負ければ参加費を徴収されるだけで一銭も戻ってこないといったルールになっている。

業界全体を相手取った大型訴訟

 このデイリー・ファンタジー・スポーツをめぐり、一般のプレイヤーがゲーム会社だけでなくゲーム会社に出資しているMLBやNBAなどのプロスポーツリーグに対しても大規模な共同訴訟を起こした。軽い気持ちでファンタジー・スポーツのゲームに参加し気がついたら多額のお金を失っていたというプレイヤーが、ゲーム会社を訴えるというケースは最近増えているのだが、リーグや球団関連会社までをも訴えたのは今回が初めてだ。  訴えを起こしたのはフロリダ州に住む男性2人で、同州の有名弁護士アービン・ゴンザレス氏が後ろ盾となり、11月21日に132ページにも及ぶ告訴状が裁判所に提出された。訴状には「デイリー・ファンタジー・スポーツはマフィア形式の違法賭博であり、不正に利益を得ている」と記されており、訴訟は約50もの企業、団体、個人を相手取っている。  訴えられた主な被告はドラフトキングス、ファンデュエルというファンタジー・スポーツ・ゲームの大手2社のほか、出資や協賛を行っているMLB、NBA、NHL、MLSの各リーグとニューヨーク・ヤンキース(MLB)とダラス・カウボーイズ(NFL)、ニューイングランド・ペイトリオッツ(NFL)という名門球団の関連会社、ニューヨーク・ニックス(NBA)のオーナーが所有するMSGスポーツ&エンターテイメント社。またゲーム大手2社に出資や広告宣伝などを行っているタイムワーナー、NBCスポーツ・コムキャスト、21世紀FOXなどのメディア企業やゲーム会社と提携しているカード会社や銀行、支払い代行業者も訴えられており、さらにゲームによって莫大な賞金を稼いだ個人プレイヤー3名が「内部情報を知った上でゲームに参加した不正参加者である」として訴えられている。  原告側が特にやり玉に挙げているのがNBAとMLBだ。NBAはリーグ幹部の1人がファンデュエル社の経営陣に名を連ね、公式な提携関係を結ぶなど、デイリー・ファンタジー・スポーツと深くかかわっている。MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは「ファンタジー・スポーツはギャンブルではない」と擁護する発言をしているが、MLB自体は野球賭博を禁止するという方針を打ち出し、過去に野球賭博を行ったピート・ローズ氏を永久追放にしているにもかかわらず、なぜファンタジーゲームを認めているのかと疑問を呈している。

原告の訴えが通ればプロスポーツ界への波紋は甚大

 プロリーグをも巻き込んだ違法賭博訴訟は一体どうなるのか。もし原告側の訴えが通れば、NBAやMLBのリーグ自らが違法賭博に関与していることになり、米プロスポーツ界に大きな波紋が広がりそうだ。  すでに逆風は吹き始めている。ニューヨーク州は11月上旬、司法長官が「デイリー・ファンタジー・スポーツは、参加者の能力に左右される競技というよりも、運に左右される部分が大きいギャンブル。違法賭博である」と定める判決を出しており、ゲーム会社が同州の最高裁に控訴しているものの、同州在住者は現在、ゲームに参加することができなくなった。また全米屈指のスポーツ都市ボストンがあるマサチューセッツ州では、ファンタジー・スポーツに関する法規制を進めようと動き出しており、20歳以下のゲーム参加禁止、プロスポーツ選手やその代理人、スポーツ界関係者のゲーム参加や広告宣伝の禁止などの法案が出される見通しだという。またPGA全米プロゴルフ協会は、所属選手に対してデイリー・ファンタジー・スポーツに参加することも広告塔になることも禁止すると通達している。  これまではっきりとした規定がなかったファンタジー・スポーツのゲーム業界は、この訴訟によって混乱し、今はまさにカオス状態。日本でもゲームに参加するファンタジー・スポーツファンが増えているが、騒動の成り行きを注目した方がよさそうだ。<取材・文/水次祥子>
みずつぎしょうこ●ニューヨーク大学でジャーナリズムを学び、現在もニューヨークを拠点に取材執筆活動を行う。主な著書に『格下婚のススメ』(CCCメディアハウス)、『シンデレラは40歳。~アラフォー世代の結婚の選択~』(扶桑社文庫)、『野茂、イチローはメジャーで何を見たか』(アドレナライズ)など。(「水次祥子official site」) Twitter ID:@mizutsugi