インバウンド消費に湧くのになぜ? 中国人が語る「東北地方に中国人観光客があまり訪れない理由」とは

宮城県の観光PRキャラクター「むすび丸」と記念写真を撮るパネル

 訪日中国人旅行者が今年10月時点で380万人を超え、過去最高だった昨年の約240万人からさらに2倍増になるほど急増している。  そんな中、「東京・北海道・東北観光セミナー・商談会」が、国土交通省東北運輸局、宮城県、福島県、岩手県、東京都、北海道、公益社団法人宮城県観光連盟、公益財団法人東京観光財団が主催で、11月3日に中国上海。5日に大連で開催された。  同セミナーの中心は、宮城県観光連盟と宮城県で、東北地域へ中国人旅行客を呼び込むために、東京と連携し、さらに今年は北海道も加え、東北+東京+北海道となった。  北海道を加えたのは、来春開業予定の北海道新幹線の波及効果を狙ったもので、北海道は、外国人観光客の延べ宿泊人数で全国2位(観光庁「宿泊旅行統計調査」平成26年暫定値)を誇り、北海道効果に便乗して今年はアピールを強めた。  大連会場では、日本からは13社が参加し、大連からは21社43人が訪れ、全体説明を聞いた後に、個別ブースで熱心に話を聞く姿が見られた。  全体会では、在瀋陽日本国総領事館在大連領事事務所の平川智雄所長が挨拶するなど、官民一体となった取り組みを印象づけたが、東北地域を訪れる中国人はあまり増えていないのが現状だ。

東北地方への中国人旅行客が伸び悩む理由

 日本政府は、震災復興政策として、2011年7月から中国人向けに「東北三県数次査証」を開始している。同査証は、宮城、福島、岩手3県のいずれかに1泊すれば、1回90日滞在可能な3年間有効のマルチビザを発給する特例ビザだ。さらに今年1月19日から取得要件が緩和されてより取得しやすくなったはずだが、発給数は期待していたほどは伸びていないようだ。  前出の観光庁の統計によると、2010年4万4000人の中国人が東北地域で宿泊したが、昨年2014年は3万1000人と震災前の70%ほどに留まっている(いずれも延べ宿泊人数)。  東北地域を訪れる中国人が伸び悩むのはなぜか。中国人海外旅行者の求めるニーズと東北側がアピールする内容にミスマッチがあると指摘するのは、大連の旅行会社Aの代表。  仙台と東京で留学や勤務経験がある中国人の代表は、「私は山形の蔵王温泉や日光の紅葉が本当に素晴らしいと思うので、中国人客にも勧めるがまるで関心を示さないんですよ。今の中国人は旅行=買い物であり、自然を楽しんだり、史跡巡りをしたり、美味しいもの食べて幸せを感じたりなんて価値観まで至っていないのです。あと10年はかかると思います。特に私たちは、団体ツアーなので、日本=初海外という人が多く、旅行=買い物という要望が特に強いです。また、一般的な中国人は、大都会志向が強く、田舎は、貧しくて何もないという思い込みが強いことも一因かと思います」(旅行会社A代表)  もちろん、これも意見の一つで、実際に中国人観光客の間でも紅葉や温泉を楽しむ人も決して少なくはないのだが、こんな声もある。 「円安の影響で日本のあらゆるものが安く感じます。ですが、移動費、特に新幹線が高いなと思います。私は遠出するときは新幹線を利用せずに夜行バスで行きます」(埼玉在住のある中国人女性)  今回のセミナーでも、外国人訪日客が新幹線も含めJR乗り放題な「ジャパンレールパス」を紹介していたが、よほど旅慣れた人以外は利用価値が少ないのかもしれない。

東北三県数次査証取得後も東北再訪を促す工夫が必要

 一方、東北地域への中国人観光客が伸び悩むのは、東北三県数次査証の取得条件に問題があるのではと話す旅行会社もある。 「このビザは、東北3県のどこでも1泊だけすれば、あとはずっと東京や大阪ばかりに行ってもいいわけですから取得時しか東北を訪れないわけです。たとえば、条件を少し変えて、ビザ取得後も東北を訪れるようにするなど工夫が必要なのではないでしょうか?」(旅行会社B代表)  当然ながら、震災後、東北地域を訪れるすべての外国人が伸び悩んでいるわけではない。たとえば、震災の年3万5000人まで落ち込んだ台湾人は、2014年11万7000人と約3.3倍増。2011年2000人だったタイ人は、2014年には1万6000人と8倍に伸びている(延べ宿泊人数)。  いずれもかつての日本のように団体旅行中心から個人旅行へシフトが進み旅の目的も多様化し、成熟しつつある国々だ。中国も次第に団体旅行から個人旅行へのシフトは始まっており、そのため個人旅行におけるニーズはまるで違うものだと考えていい。すでに中国人旅行客でも個人旅行客は、桜を眺めたり、紅葉や神社仏閣、遺跡を楽しむ人も年々増えている。  しかし、現状、大量に訪れインバウンド消費に貢献してくれる中国人観光客はツアー客が圧倒的に多い。そんな彼らにとっては、東北地方が「我が県の魅力だ」とアピールする大自然や温泉、スキー、風光明媚な観光地、食べ物などは、あまり魅力的なものだと受け入れられていないのではないか。東北地方の観光関係者は腑に落ちないかもしれないが、まずは東北地方でも仙台などの都会における買い物中心のツアーを目玉として客を呼び込み、それから、次のステップとして今回のような自然や観光地をアピールするのが現実的なように思えるのだ。 <取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma