「地アタマ」を鍛えたいなら、この本を読め
2015.10.31
「アタマが良いね」と言われるよりも、「地アタマが良いね」と言わるほうが、嬉しい……そんな感覚をお持ちではないだろうか?
「アタマが良い」と「地アタマが良い」は、一見同じようで、実は大きな隔たりがある。 多少不調法なところがあったとしても「何だかんだ言って、アイツは地アタマが良いからね」なんて評価される人がいる一方で、「アイツ、お勉強はできるけど地アタマが悪いタイプなんだよなぁ」なんて皮肉が影で語られて、一同が冷笑するなんて場面もあったりする。本質的なアタマの良さ、といったニュアンスが「地アタマ」という言葉から醸されているわけだ。
そんな地アタマ問題(!?)が気になる人にとって、今回紹介する『分類脳で地アタマが良くなる』は、煽り要素満点のタイトルに聞こえてくるのではないだろうか。著者の石黒謙吾氏は、編集者・著者として200冊以上の書籍に携わり、辣腕をふるってきた御仁。本書は、石黒氏がこれまでの数多の仕事を通じて磨いてきた「分類」の技術をベースに、「デキる人」になるための考え方をドリル形式でレクチャーしてくれるものだ。
石黒氏が解く「分類」の妙味は、あらゆる物事を徹底してシンプルに捉えていく点にある。一見、フクザツに思える事象でも、ひとつひとつの要素にバラしていけば、実は二択で判断できることばかり──そう説いた『2択思考(新書版は『決断できる人は2択で考える』)』をはじめ、石黒氏の分類に関する言説には、さまざまな示唆が溢れている。本書の中でも〈分類とは「似て非なるものの差を見つけること〉〈決断の前に分類あり、分析の前に分類あり〉〈常に「あの人、○○に似ているな」と考えよう〉〈AKB、あまちゃん、四十七士……分かれていればヒットする!〉など、多彩な角度から「分類」することの重要性や、その効能が語られている。
物事を捉えるにあたって「分類」の視点を意識するだけで、アタマの中が格段に整理されるようになり、理解・認識するまでの時間がグッと短縮できるようになる。結果、決断も早くなり、生産性もアップする……といったことが語られているのだが、何よりもまず、アタマの中に自分なりのチャート図をイメージして、そこに目の前の事象を当てはめていくような感覚が、ちょっと面白かったりする。
そして、実際は多くの人が無意識のうちに「こういうタイプの人は○○」「□□という商品よりも、△△のほうが自分には合っている」といった分類を、日々繰り返しているということに気づかされるだろう。これまで無自覚のうちにしていた「分類」を意識的にしてみると、自分のまわりの世界がより鮮明に見えてくるかもしれない。まあ、現実はそう都合よく話が進まないかもしれないが、物事を漫然と見ているよりは、遥かにマシなはずだ。
さて、本書の魅力は、単に分類術のようなテクニックを語っているだけではないところにもある。書中の随所に、仕事をする上で、また生きていく上で大切にしたい姿勢や、土台として持っておきたい考え方など、人生訓や処世術に関わるような論考が登場する。編集者・著者としての蓄積から導き出された“人生における原理原則”といってもいいだろう。それが、本全体をピリリと引き締めている。
たとえばこんな調子だ。ひとつのことばかりを掘り下げて考えてしまう「タテ思考」の問題点と、物事を幅広く見渡し、柔軟に捉えることができる「ヨコ思考」の利点を対照的に語っていくくだりに「ネット社会がタテ思考を加速させる危惧」という項目がある。その一節を紹介しよう。
「自分のツボに入った話題のときだけパーッと話をして、別の話題になるとピタッと黙り込んでしまって質問すらしない。飲み会などで、そういう人が増えていると感じます。(中略)これは、タテ思考的行動の典型です。
ヨコ思考的な人は、場が盛り上がったら「面白いですね!」と乗っかり、長いなと思ったらパッと話を切って、うまく話題をやりくりする。ヨコにヨコにと話を広げていくことで、ネタをまんべんなく拾うこともできてみんなが楽しめる。
タモリさんやさんまさんなど、すごい司会者はみんなヨコ思考。
タテ思考の人が増えているのは、ネット時代の影響もあるのではないかと。amazonでは、関連したおすすめ商品が勝手に表示されるし、ニュースアプリにしてもクリックした結果を分析して、その人が好みそうなネタばかりを表示したり。これ、ヨコにつながっているいるように捉えがちですが、〈自分の意志ではなく勝手に差し出される〉のは、考えをヨコに広げているのではなく、むしろ一直線上のヨコ方向。(中略)ネットのように、勝手にどんどん目の前におすすめを出されてしまうと、自分でピックアップしていく勘が養われない。」
また「内面を分類すれば、人を肯定できる! 嫌いにならない」という項目では次のようなスタンスが語られている。
「本来、性格や感情を大ざっぱになんて分けられるはずがありません。だからこそ、人に対する思いは、是々非々で考えるクセをつけたい。この人のこの部分は合うけれど、この部分は合わないと分けて考えると、人を嫌いにならなくて済む。というか、好きになれる。
全否定したくないから、パーツごとに性格を見ていこう。これは僕の持論です。」
このように、全体としては思考術やライフハック的な要素をふんだんに盛り込んだ、実用性の高い本でありながら、ところどころに仕事論や自己啓発的な言説が盛り込まれていて、それが絶妙なスパイスとして効いている。
「地アタマ」を鍛えながら、人間性すら磨くこともできる、お得感の高い一冊だ。
<文/漆原直行>
『分類脳で地アタマが良くなる 頭の中にタンスの引き出しを作りましょう』 類という思考を無意識下から意識上に引っ張り上げ、対話してみましょう |
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