中国からのニーズが増える反面立ち遅れる日本の医療現場

日本の医療は医療ツーリズムの波をどう受け止めるのか?

 中国人医療ツーリストの波が押し寄せているのは日本だけではない。香港や台湾、韓国への医療ツーリズムも年々急増している。  周辺国を見ると、医療目的で台湾を訪問した外国人は、2008年2万1974人だったのが、2012年には17万3081人(出所は台湾衛生署)と5年で7.8倍になっている。  韓国は、2009年6万201人から2012年15万5672人(出所は韓国保健福祉部)と2.5倍に増えている。これらの人数は中国人だけではないが、中国人がかなりの比率を占めている。いずれも国ぐるみで規制緩和し、受け入れ体制を整えた結果だ。韓国は、整形目的で訪れる日本人も多く、韓国政府は、2020年までに医療ツーリスト100万人の目標を掲げ、力を入れているのが現状だ。  中国からの医療ツーリズムを展開する「ビジット・ジャパン」代表の井上智樹氏によると、中国で医療ツーリズムへ参加する人は、40代後半から60代が多く会社経営者を中心に退職者、中には余裕がある会社員もいるそうだ。検査は両親だけ受けて、一緒に連れてきた子や孫は温泉や観光を楽しむなど家族一緒に参加する人も多い。  しかし、実際に日本での受け入れ体制を考えた時に、アジアの諸外国に比べると日本の医療には「壁」があるという。 「医療ツーリズムを手がけてみて強く感じたのは、日本の医療は非常に保守的だということです。その反面、地方の病院は悲鳴を上げており、このままではいけないと痛感しています。医療交流などを通じた医療の国際化は急務であり、自由診療の患者さんを増やしていくことは日本の医療の底辺を支える大切な力になります。海外では医療と観光が密接に連携しており、観光とセットになったインバウンド事業が地方活性化にも貢献すると思います」(井上氏)  日本は、2020年に目標である訪日観光客2000万人を到達したとして、仮にそのうち3%の外国人が病気や怪我をすると60万人になるわけだが、その受け入れ体制が、まったく整っていないとビジット・ジャパン井上氏は危惧している。また、日本政策投資銀行のレポートによると、2020年日本における潜在的な医療ツーリスト数は42万5000人、観光を含む医療ツーリズム市場は5507億円と試算している。  合計100万人もの外国人を対応できる医療体制を作るまでの時間は限られている。 <取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma