東京五輪に向け、「日本の航空」が迫られている決断

 相次ぐ飛行機事故の原因は、安全コストへの認識の甘さだと断言する航空評論家の秀島一生氏。先日起きたウクライナの事故は、安全に対するコストを削った結果、起きた事故だという。
ウクライナ航空機事故

「ロシアの声」より(http://japanese.ruvr.ru/)

「日本より南の方からヨーロッパに行く便は、まっすぐ飛ぶとどうしてもウクライナ周辺を通ることになります。ただし危険空域を避けようと迂回すれば、当然その分コストがかかる。表面上は燃料コストに見えますが、この場合の燃料コストは安全コストにほかなりません。航空会社が優先すべきは安全のはずですが、今、世界的にも安全を軽視する傾向があります。ウクライナの事故後、カンタス航空やエールフランス航空は危険な地域を迂回すると発表しました。つまり、あの事故が起こるまでは危険な空域を飛んでいたのです」  コスト優先は日本だけではなかった。同じ空を飛ぶ以上、世界的な安全軽視の傾向は加速度的にリスクが増大することを意味する。このほか日本では「日米の貿易摩擦解消のため、1980年代のバブルの頃にアメリカから100機以上も飛行機を購入したこと」もリスク要因になっているという。 「大量に飛行機を購入したものの、そもそも搭乗率70~75%の採算路線の空は過密状態。降りる場所がないという理由で関西国際空港など新しい空港を作りましたが、集客が順調とはとても言えません。高度経済成長期のころから人口の大都市集中化や人口減少は予測できていたはずなのに、その場しのぎの政策を繰り返した結果、就航した不採算路線がかえって経営や安全コストを圧迫しています」  航空機の大量買いがもたらす問題性はほかにもある。パイロット不足である。 「実は今、日本の航空会社はパイロット不足に悩んでいます。機体を購入した時点で、当然必要なパイロットの人数はわかるはずなのに、見合う数のパイロットを養成してこなかった。足りない分は技量のわからない外国人を非正規社員として補い、十分なトレーニングを積ませないまま飛ばせてしまう」  安全コストの削減は「パイロットリスク」までも生み出してしまったのだ。  そして日本特有の問題として、尖閣諸島上空に中国が設定した防空識別圏の問題がある。 「一方的に通告された防空識別圏とはいえ、飛行計画を提出しなければスクランブル(緊急発進)をされる危険があります。ただの民間機が中国軍の脅威にさらされる可能性があるというのに、日本政府はいまだ明確な対策を打ち出すことができていません」  現在の状態では災害に弱く、空港と都市との導線も弱く、空港同士をつなぐインフラもない。安全意識の低下に過密化する東京国際空港、空港の配置リスクにパイロットリスク、そして防空識別圏対策……。2020年の東京オリンピックに向けて、海外から2000万人を呼ぼうというときに無策でいいわけがない。秀島氏は以前から「東京駅から海岸線を千葉まで走る京葉線の二段化などで成田新幹線の運行を」と成田と羽田の緊密な連携を提案し続けてきた。 東京オリンピック 国土交通省は2020年の東京オリンピック開催を見すえ、成田国際空港と東京国際空港を1時間未満でアクセスできるように「新東京駅」を設け、京成線の押上駅と新東京駅、京急線の泉岳寺駅を結ぶ「都心直結線構想」を掲げ推進しているが、さらなる施策が求められている。 「与党から成田新幹線を運行させようという声も出ているそうですが、どこまで本気かは疑問符がつきます。成田と羽田をひとつの空港のように使える利便性を獲得すれば、空の安全性の向上はもちろん、経済的にも非常に大きな効果が見込めるはずなのですが……」 「経済の起爆剤に」と悲願だった東京オリンピックはまたとない機会だ。羽田と成田をはじめとした空港間の利便性の向上が、安全な空の旅と経済効果につながる。鉄道の敷設には時間がかかる。決断を逡巡している時間はない。 <取材・文/河本美和子>