タイ人の豊胸手術の痕はほとんど見えないほど腕がいい。しかし、美的センスの違いもあり美容整形をタイで行うのは仕上がりにリスクが伴う
かつて「医療ツーリズム」が盛んだったタイ。そんなタイの医療ツーリズムが、ある日本人男性による代理出産の悪用が発覚したことで規制の対象になり、医療ツーリズム業界が縮小傾向にある。
タイで代理出産のサポートもしてきた「J web Creation」の代表、横須賀武彦氏は、この事件がタイの医療業界全体に悪影響を及ぼすことを危惧すると同時に、医療ツーリズムという業界そのものが世界的にまだ未発達である点を懸念する。
「私どもが運営する代理出産サポートの『タイランドIVFサポートセンター』は、昨年の日本人の事件発覚でいち早くタイ国内で代理出産が禁止される可能性を察知して2014年10月にジョージア(旧呼称:グルジア)を視察し、現地の『代理母&卵子提供生殖医療センター』と提携して 『ジョージア代理出産ジャパン』を設立しました。日本人夫婦が代理出産を希望して『タイランドIVFサポートセンター』に連絡してきてもすぐに対応ができる環境を整えたのです。しかし、まだ問題があります。それは、日本の法律です」
日本は代理出産を認めない方向にいまだあるため、代理出産で出生した子どもの届け出を日本の役所で受理してもらえなくなる可能性など、どのような規制がされるかがまったくわからない状態にあるのだ。
「ほかにも、人間ドッグや癌検診などもタイで多少安くできますが、そもそもタイと日本の医療制度は根本的に違うので、その検査結果に対して日本の病院がどのように応対するのか不明です。そういった細かい点の連携がまず見られないのが問題だと思います」
とはいえ、日本の病院にとっては「お客」の流出にも繋がるわけで、積極的に連携を進めるのも考えづらい。
バンコク市内にある「J web Creation」の本社。代理出産や性別適合手術のほか、スパの予約代行なども行う
もちろん、タイ側でも、医療観光の受け入れ業者に対する許可などが整備されていないという問題もある。
「J web Creation」では性同一性障害者の性別適合手術アテンドも行っている。タイは高度な技術を使った手術を安く受けられることから、外国人の性同一性障害者が多く訪れる。昨今は日本人の「男性→女性」の施術数は落ち着き、「女性→男性」の希望者が増えている。しかし、技術が高いのはほんの数院程度で、とんでもない病院で手術を行うと「性器を見たことがないのか?」というほどひどい形の陰部などを作られてしまうケースも発生しているのだという。
そうなったときに誰が責任を取って面倒を見てくれるのか。そこが非常に曖昧なのだ。「J web Creation」の横須賀氏は警告する。
「日本人が関わる当社のような受け入れ業者は20業者程度ありますが、受け入れ態勢が整っていない会社も存在しています。例えば、組織化せずに個人で受け入れているところ、医療関係の知識やサポートするに必要なタイ語も英語も話せない業者もあります」
海外に行くと日本人は日本人を無条件に信じてしまうが、渡航の前によく調べることを勧める。横須賀氏によるとタイ人医師には世界的に有名な人も少なくない。しかし、診療時は最低でも英語が必要になるので日本人には言葉の壁が必ず出てくる。そのときに間に立ってくれる人が重要で、入り口の選択でまず誤らないようにしなければならないという大きな難関が待ち受けることになると指摘する。
タイの医療観光は今後も発展するかと思われていたが、結局、法を悪用されたり、受け入れ態勢が曖昧など、問題は山積みだ。体に関わることなだけに、医療観光を考える人は、どの国であってもより慎重にならないといけないようである。
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NaturalNENEAM)>