川内原発再稼動で再び懸念される「海の環境破壊」
九州電力川内原発1号機が今年8月11日、4年3か月ぶりに運転を始めた。原子炉が出した熱の実に3分の2は電気にならず、温排水として海に捨てられる。「海暖め装置」でもあるのが原発だ。一方、2年近く続いた原発ゼロ期間中、各地で原発周辺の海洋環境が劇的に改善したとの報道が相次いだ。
「それまで浜辺に魚などの死体が打ち寄せられていたのが、川内原発が運転を止めてからピタリと止まりました。劇的な変化でした」と話すのは、市民団体「反原発・かごしまネット」の向原(むこはら)祥隆さんだ。
川内原発の稼働中、近くの浜辺には毎日のようにサメやエイなどの大型魚類、クジラやイルカなどの海生哺乳類、ウミガメなどの死体が海岸に漂着していた。ところが2011年9月の運転停止以降はそれらが一切なくなったという。
海水1度の温度上昇は、気温でいえば3~4度上がるのに相当する変化だとされる。原発が排出してよい温排水の温度は取水口の海水温度プラス7度まで。出力100万キロワットの原発の場合、1秒に約70トンもの温排水が出る。
九電は温排水の影響を否定するが、向原さんらは温排水によって川内原発周辺海域で環境破壊が生じているとして、2010年10月に九電を相手取り「温廃水」訴訟を起こした。訴状で、温排水の影響として「海洋生物の死亡漂着」「原発南側での海藻の全滅」「原発南側に隣接する漁協での漁獲の激減」などを挙げている。鹿児島地裁は12年10月、訴えを退けた。
もっとも、温排水を出すのは原発に限らない。火力発電所からも温排水は出る。しかし熱効率で比べると、原子力が30%程度なのに対して、火力は40~60%だ。つまり原発の再稼働により、火発を運転するよりもムダに熱が海に捨てられることになる。
京都大学舞鶴水産実験所の益田玲爾(れいじ)准教授は若狭湾で潜水調査を続ける。若狭湾では関西電力高浜原発の停止後に周辺海域の海水温が下がり、地元特産のアカウニやムラサキウニ、マナマコなどが姿を見せるようになったという。海藻も茂ってきたそうだ。
舞鶴湾には舞鶴石炭火力発電所があるが、こちらでは海洋生物への影響はみられないという。「火力発電所の周辺で変化が見られないのは、第一に、火力発電所の方が効率よく熱を使っているからです。しかも10年前に完成した舞鶴火力発電所は、舞鶴湾内から採水。冷却に使った(つまり加温された)海水を長い地下パイプを経て、湾外に放出しています。ですので、排水口に近い瀬崎沖で潜水中に測定しても、同所と舞鶴湾内の水温差はほとんどありません。
一方、40年前に作られた高浜原発では、湾外の海水を冷却に利用し、7℃高い水を湾内に放出しています。このため、原発稼働中に高浜町の内浦湾は温排水による影響を強く受けていました」(益田氏)
川内原発の場合、現在のところ温排水を沖合に放出する地下パイプのような設備はない。向原さんは「原発が停止し、4年かけてようやく“海焼け”した海底にヒジキなどの海藻が付き始めたところ。再稼働で徐々に影響が広がるでしょうが、これでは元の木阿弥です」と話し、温排水の影響を懸念している。<取材・文/斉藤円華>
温排水停止の4年間で徐々に海の環境が回復!?
火力より影響が大きい? 原子力の温排水
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