緑肉騒動だけじゃない。マクドナルド不振の原因

マクドナルド 日本マクドナルドの迷走ぶりが痛々しい。言うまでもなく、国内で7割超のシェアを誇ってきたハンバーガーチェーンのガリバーだが、同社は早くも今年4月の段階で’15年12月期の通期業績見通しを下方修正し、2年連続で赤字に陥ることが決定的となった。  この不振の原因とされているのは、昨夏に端を発した「食の安全」を巡る騒動だ。中国の食品会社から納入の保存期限切れ鶏肉を用いて、人気メニュー「チキンマックナゲット」が製造されていたのが発覚したことは、いまだ記憶に新しいだろう。そのうえ、いくら期間限定モノの中で特に高い人気を誇るとはいえ、発覚直後に同じく鶏肉を用いた「チキンタツタ」の販売に踏み切り、さらに消費者の反感を買う格好となったようだ。

デフレでなければ儲からないビジネス

 もっとも、日本マクドナルドの業績低迷は鶏肉の偽装問題だけが引き起こしたことではない。グラフを見れば明らかなように、騒動が発覚するはるか以前から、店舗の売上高(全店、既存店)、客数、客単価のいずれもが前年同月比でマイナス傾向を続けていたのだ。食の情報の専門家を育成する日本フードアナリスト協会の横井裕之理事長は指摘する。 「日本マクドナルドの商売は典型的なデフレのビジネスモデルで、海外から仕入れた原材料を用いて安さを最大の武器にライバルを圧倒してきました。しかし、円安で輸入物価の上昇が続く今、もはや同じ商売が通用しません。偽装問題はキッカケにすぎず、もともと構造的な問題を抱えていたのです」 ⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=56939
マクドナルド

日本マクドナルドホールディングス株式会社ホームページ「月次セールスレポート」より作成

 もちろん、同社の経営陣もただ手をこまねいているわけではない。経営再建策「ビジネスリカバリープラン」を発表し、今後4年間で2000の既存店をリニューアルするとともに、不採算の131店を閉鎖。本部社員100人に早期退職を実施する一方、全国を3エリアに分けてマーケティングなどの権限を委譲する意向だ。いつの間にか封印していた「スマイル0円」もメニュー表に復活させる。  また、信頼性回復のための一環として、埼玉と大阪の2店舗に「オープンキッチン」を導入。外壁をガラス張りにして調理風景を公開し、安心して食べてもらうという試みだ。さらに、7月27日には六本木ヒルズ店で、夏の新メニュー「フレッシュマック」の発売を記念した1夜限りの「レストラン・エム」をオープン。マクドナルドで用いている食材をコース料理にアレンジし、特別メニューとして提供した。しかし、前出の横井氏はこう疑問を呈する。 「結局、大半がマクドナルドに求めていたのは安さ。果たして、コース料理を食べたいと、どれだけの人が望むでしょうか? 今さら高付加価値商品で勝負しても、その路線ではフレッシュネスバーガーなどに太刀打ちできません。『スマイル0円』にしても、壁に向かって微笑みかけるような接客マニュアル上の対応で、ニーズが細分化された“個食の時代”の消費者は満足させられないでしょう」  会社側が発表した復活プランの内容にヤレヤレと思ったのか、いつの間にかツイッター上には「♯私の考えるマクドナルド再建」なるタグが作成され、消費者たちが好き勝手な案を披露していた。「台湾のマックを見習って、店員にメイド服を着せろ!」や、「マック赤坂に業務委託!」がその一例だ。では、食の世界のプロなら、どんな再建策を考えるか? 横井理事長は対照的な2つのプランを進言する。まず、その1つは「初志貫徹の徹底低価格路線」である。 「とことん合理化を進めて低価格路線を貫き、すべての商品を100円以下の値段で提供するのです。デフレが終わっても格差社会は進むので、必ずや今よりも多くの層から支持されるでしょう。早朝の時間帯に営業して割引などを実施すればシニア層も獲得でき、遊具なども設置すれば彼らと孫との憩いの場にもなりそうです」  これに対し、横井氏が構想するもう1つのプランとは、現経営陣が決めた地区本部制の導入よりもさらに一歩踏み込んだものだ。 「全国を20エリア程度に分けて各々で工場を建設し、名産品を用いた“地産地消”のご当地バーガーを提供するのです。期間限定で他地域とコラボすれば、かなり盛り上がるでしょう。ただし、そのためにはマクドナルドが貫いてきたセントラルキッチン方式を見直さなければなりません」 【横井裕之氏】 立命館大学卒業後、日興(現SMBC日興)証券に15年間勤務してから独立。(社)’05年に日本フードアナリスト協会を設立し、理事長に就任。