タイ・チェンマイの老後ロングステイヤーをカモにする犯罪も……

⇒【前編】「タイ・チェンマイで老後を過ごすロングステイヤーの誤算

事件に巻き込まれても自殺扱い

羽目を外してバーに行ってみたら若い女に言い寄られ、あっという間に散財というのは語るには陳腐ほどよくある話だ。

「ほかには独りで来た男性がタイ人の若い女性に出会うっていう、聞き飽きたようなシチュエーションも多いです」  そして、タイ人女性に情け容赦なく完全に身ぐるみを剥がされるまで財産をむしり取られることもある。相当運が悪ければ殺害されることだってありうる。  結婚する前に財産目当てだと勘が働けばいいが、女性も必死なので警察に駆け込んで相手が言葉ができないのをいいことにあることないこと喚き散らす。元ボランティアの彼が遭遇したシーンでは結局日本人男性が1万バーツ程度の手切れ金で手打ちとなったという。 「殺されたという話では、手足を自分で縛ってダムに飛び込んだ自殺もありましたよ。一応自殺らしいですけどね」  タイは在留邦人6万人超と世界的に見ても多く、日本人社会がそのまま日本の縮図になってくるという。そのひとつにあるのが日本人の自殺だ。タイ国内のニュースにはあまり出てこないが、年間にかなりの件数が発生していて、極端に言えば週にひとり以上はいるというほどだ。タイ警察の捜査能力は決して低くはないのだが、手足を縛った怪しい状態で殺されても自殺と判断されることもなくはないのである。もし他殺であれば、ただの死に損でしかない。

同胞を食い物にする悪徳日本人や在留邦人の派閥争い

 また、昨今は危ないのは同胞でもあるという。日本人が日本人を騙す事件が増えているのだ。バンコクが特に多いのだが、バンコクで顔が知られた詐欺師はほとぼりが冷めるまでチェンマイで小銭を稼ぐという話もある。  さらに、日本人高齢者同士の派閥があって、つき合い方に間違いがあれば即仲間はずれにされたり、いじめの対象となる。4000人もいるとはいっても、チェンマイの日本人社会は狭く、ごたごたを起こすと生きづらくなる。人間関係だけで優雅な暮らしを望める環境はないのだ。  病んだ日本人高齢者もときどきいる。例えば、飲食店で働く日本人従業員から聞いた話では、 「定食を頼んで、全部食べたあとに味つけが悪いとか、料金が高いと文句をつけて怒鳴り散らす人もいますね」  客という立場を利用してストレスを発散するのだが、こういった人はタイ人の店ではそれはしない。言葉が通じる日本人だからこそ、横暴な態度に出るのだ。  もちろんロングステイを謳歌している人だって多い。ただ、ほとんどは年金のほかに自由になる金がある人となる。残念ながら、ロングステイというのは金があって、自分の身を自分で守ることに慣れていない人には心休まる場所はないのが現実のようだ。 <取材・文・撮影/高田胤臣 Twitter ID: @NatureNENAM
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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