アメリカとキューバの国交回復は、両国と関係の深いロシア・中国に何をもたらすか

photo by Emmanuel Huybrechts(CC BY 2.0)

 今月20日に米国とキューバは54年振りに国交を回復し、ワシントンとハバナで両国の大使館が再開された。  1959年にカストロ兄弟による革命で米国との関係は冷却し、アイゼンハワー米国大統領が1961年1月にキューバとの国交を断絶した。それから54年が経過しての国交回復である。  オバマ大統領は大統領に就任した時にキューバとの関係改善を望んでいたという。  その理由には、米国はキューバに対し半世紀の間制裁を続けて来たが、両国の関係に伸展はないということがある。またキューバ出身で米国に亡命して成功した企業家や米国の多くの企業もキューバとの取引再開を望む声が強くなってもいたという。  同時に、中国を始め、ロシア、EUや更に米国と北米自由貿易協定(NAFTA)を構成しているカナダとメキシコさえもキューバとの取引を発展させているということから、米国の企業家の間で焦りも出始めていたのだ。  そんな中で、イニシアティブを取ったのが、米国で300万社の会員をもつ米国商工会議所のトーマス・ドノウエー会長だった。彼は昨年5月にキューバを訪問し、ラウル・カストロ評議会議長と会談もったのである。キューバ政府も米国との関係改善を望んでおり、同会長がキューバを訪問する前の4月には、キューバ出身で外国で在住する者が同国との取引及び投資が出来るように法を改正したのである。  声明後も両国によるさまざまな条件についての交渉は続き、ついに今月20日の国交回復そして大使館の再開に至ったのである。  条件は複数あった。例えば、両国の大使館に勤務する職員の数や、ハバナの米国大使館員がキューバ国内で移動する場合は事前に地元関係当局に伝えることなどが合意された。同様にワシントンのキューバ大使館員の行動においても同様の取り決めがされた。更に、今後の交渉で一番の問題とされているのが両国の賠償問題である。米国からはキューバ革命時に米国人企業家から強制的に乗っ取た所有物への賠償、一方のキューバからは長年の制裁による損害への賠償を要求している。  主に亡命キューバ人が編集に携わっている「ディアリオ・デ・クーバ」紙によれば、〈現在まで米国では、この件の関係当局(OFAC)には5911件の賠償請求が登録されており、その総額は70億-80億ドル(8,750億円-1兆円)と推定され、キューバ政府もこれらの請求を認めている〉という。また〈キューバは長年の制裁の賠償として1,000億ドル(13兆5,000億円)の請求をしており、国交正常化にはこの問題の解決なしには国交の正常化は存在しない〉という姿勢を守っている。  更に、キューバは制裁の全面解除を求め、またグアンタナモのキューバへの返還も要求している。  両国の関係改善化は何をもたらすのか? それはおそらく、関係改善と反比例的にキューバでのベネズエラの存在が後退して行くことになるだろう。財政的に国家の運営が難しくなっているベネズエラは、これまで安価で原油をキューバに供給していたが、それも徐々に減っている。ただ、米国とキューバの国交回復交渉には米国の対ベネズエラへの取り組みも交渉の中に含まれているという噂もある。長年キューバの経済を支援してくれたベネズエラが米国と対立するのは望ましくないという考えをキューバ政府はもっており、米国とベネズエラの関係改善に協力しているという。

キューバと米国の接近を懸念する中ロ

 そして、米国とキューバの接近を懸念しているのがロシアと中国である。米国とキューバが秘密裏に交渉をしているという情報をロシアと中国が掴んでいたのか否かは不明であるが、ロシアのプーチン大統領は昨年7月にキューバを訪問した際に〈キューバのロシアへの債務350億ドル(4兆3,750億円)の90%を減免し、残り10%は返済を求めたが、それは同時に両国の発展の為にキューバに投資することを約束した〉また〈ロシアは国営企業ロスネフチ(Rosneft)とザルベチネフチ(Zarubezhneft)とキューバの国営企業クペット(Cupet)の合意によってキューバ近海での石油採油の開発を進めている。キューバは200億バレルに相当する埋蔵量があると見ているが、米国の地質調査では46億バレル分と見ている〉とBBCは報じている。  また、米国とキューバとの国交正常化が世界に報道された後の今年2月には、まずアレクセーイェビッチ副外相がキューバを訪問して〈800メガワットの発電所の建設や石油開発を進めること〉などを表明している(『Progoreso Semanal』紙)。そして翌月3月にはラブロフ外相が訪問している。その訪問時に、キューバのガブリサス副議長は〈米国による半世紀も続いた包囲によって孤立した闘いの中で、ロシア(当時ソ連)が支援を続けてくれたことに感謝を表明している〉ことがキューバ国営機関紙『Granma』で報じられた。また〈ラブロフ外相は昨年プーチン大統領と合意した内容を実践に移す用意があることも伝えた〉と同紙は明らかにした。  一方の中国とは、ラテンアメリカの国でキューバが最初に外交関係を結んだ。1960年の出来事である。以来、主に経済協力や貿易を主体に行っており、貿易取引においては、中国はキューバにとってベネズエラの次に取引額の多い国になっている。2012年の両国の取引額は16億9,500万ドル(2,120億円)であった。また、それだけではない。通信衛星での分野でキューバを基地に利用することにも両国は合意しており、軍事的にも中国はキューバと接近していることを米国は危険視しているという。  しかし、今はキューバ革命の推進者であったカストロ兄弟の兄のフィデルは政界から引退している。そして弟のラウルも2018年に引退する予定だ。その後は新しい指導者層の誕生となるが、フロリダから僅か170kmしか離れていない社会主義国キューバが米国の影響下に入るのは必然的な歴史の流れになると思われるが、この先も中ロの動きも含めて注視していく必要があるだろう。 <文/白石和幸 photo by Emmanuel Huybrechts on fickr(CC BY 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなしていた。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身