「自分は凡人だ…」という劣等感からの逃れ方

【石原壮一郎の名言に訊け】~岡本太郎の巻 Q:創業5年目のIT企業に勤めています。社長はたまにテレビにも出ている有名人で、能力もカリスマ性も半端じゃありません。おかげで、会社の業績も好調です。社長のことは大好きだし尊敬していますが、何かというと「俺に学べ!」「俺を追い越すつもりでやれ!」とハッパをかけられるのが苦痛でたまりません。何の才能もカリスマ性もない自分が、社長のようになるなんて無理です。期待してもらえるのはありがたいんですけど、自分としては分相応の目標を持てたらいいと思っています。(東京都・26歳・システムエンジニア)

写真はイメージです。

A:おっと、ずいぶん謙虚な方ですね。「分相応の目標」って……? 社長のもどかしさが間接的に伝わってくる気がするのは、私だけでしょうか。昼下がりの喫茶「いしはら」のカウンターでは、絵描きの次郎さんがいつのものようにブツブツ独り言を言ってらっしゃいます。梅雨のうっとうしさを吹き飛ばすようなというか、梅雨のうっとうしさを増幅するようなというか、とにかく強烈なインパクトを持ったお方です。次郎さん、いかがでしょう。  グラスの底に水滴があってもいいじゃないか! 芸術は爆発で、俺は白髪だ! カリスマ社長にハッパをかけられてもいいじゃないか! ハッパはフミフミすればいいんだ! 俺も若いときはハッパが好きだった! もちろん、人からかけられるハッパのことだ!  その社長が好きで尊敬しているんだったら、目標にすればいいじゃないか。自分の「分相応」を勝手に低く見積もって、楽しようとしてるんじゃない。俺のライバルは、大阪の万博で「太陽の塔」をつくった岡本太郎だ。おまえに、岡本太郎のこんな言葉を教えてやろう。 「よく、あなたは才能があるから、岡本太郎だからやれるので、凡人にはむずかしいという人がいる。そんなことはウソだ。やろうとしないから、やれないんだ。それだけのことだ」  カリスマ社長にできて、おまえにできないなんて誰が決めた。おまえが決めてるだけだ。カリスマ社長だって、最初からカリスマ社長だったわけじゃない。最初は、せいぜい「カリ(仮)社長」か、もしかしたら「カス社長」か「カマ社長」ぐらいだっただろう。うむ、我ながらうまいことを言った。とにかく、努力して努力して、また努力して、立派なカリスマ社長になったんだ。 「でもやっぱり、素質や才能が違うから……」とグズグズ言いたいかもしれない。岡本は、こうも言っている。「自分はあんまり頭もよくないし、才能のない普通の人間だから何もできないんじゃないか、なんて考えるのは誤魔化しだ。そういって自分がやらない口実にしているだけだ。才能なんてないほうがいい。才能なんて勝手にしやがれだ」ってね。もちろん、社長のコピーになる必要はない。とことん吸収して、その上で自分だけの世界を築け! 若いくせに「分相応の目標」なんて立てるな。そんなもんは足かせになるだけだ。  俺もやるぜ! 岡本太郎と肩を並べて、あちこちに太郎と次郎の銅像ができるぐらいになってやる! さて、しゃべりすぎてノドがかわいたから、とりあえずビールにするかな。

【今回の大人メソッド】夢や目標の段階で自主規制する必要はない

 どんな大物も成功者も、当たり前ですが同じ人間です。「あの人だからできたけど、自分には才能がないから無理」と思うのは、努力から逃げるための言い訳に過ぎません。漠然とした夢にせよ具体的な目標にせよ、自主規制なんてせずに遠慮なくふくらませましょう。そこに近づけるように頑張ればいいだけです。ま、夢や目標ばかり大きい人も困りますけど。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)