青木克也氏
アルバイトという弱い立場につけ込まれて、「低賃金で酷使される」「休めない」「辞められない」「罰金を取られる」「パワハラ・セクハラを受ける」など、社会問題化している「ブラックバイト」。ここ最近、どんどんそのブラック度合いはエスカレートしているという。関西学生アルバイトユニオンの青木克也氏はこう語る。
「あるレストランでバイトをしていた20代の女性は、労働時間の取り決めがなく、ひたすら働かされていました。月80~90時間は働いていたと思いますが、時給に換算すると300円。バイトのシフトが入っていない日でも、呼び出されることが何度もありました。
例えば夜の11時に店長から電話がかかってきて、『今何やっているんだ?』と聞かれたので、『もう寝ようかと思っていたところです』と彼女が答えると、『今すぐ店に来い!』と言われる。彼女は専門学校に通っていたのですが、試験前に勉強していても『そんなヒマがあるなら店に来い!』と言われる。
難色を示すと『俺がこんなに大変なのにお前はわからないのか!』『俺が倒れたらお前は責任とれるのか!?』などと怒鳴られるなど、もう言っていることがメチャクチャ。また、彼女が炊飯器を火の近くに置いて、蓋をちょっと溶かしてしまった際、機能的には全く被害がないにもかかわらず、その店長は『うちにこんなものは置いておけない! お前、新しい炊飯器を買ってこい!!』と命令。家電店で一番高いものを自腹で買わされたそうです。彼女のバイト仲間の男性も過労死寸前まで働かされ、またしょっちゅう殴られるなど、暴力も加えていたとか。
またある大学生の場合、スーパーでアルバイトしていたのですが、「学業に支障が出ると困る」ということで、週3日の出勤という条件でバイトを始めたにもかかわらず、勝手に週5日のシフトを組まされてしまいました。「それは話が違う」と週4日にしてもらったのですが、そのことから職場で嫌がらせにあったそうです。
例えば、制服を冬服から夏服に切り替える際、その学生さんだけ知らされてなく、一人で冬服を着ていたために、皆の前で叱責されたりとか。パートのおばちゃんにも『学生だからヒマなんでしょ』と言われたそうですが、バイトと学業の掛け持ちは大変です。本人は成績にはかなり悪影響が出て、単位を落とすかもしれないと不安がっていました。同様に大学の学費など払うためにバイトをしているのに、バイト先に拘束されて学校に行けないというケースはかなりありますね。中には、バイトが休めないために大学に行けず、結局退学してしまったという本末転倒なことまであると聞きます」
久野由詠弁護士
また、時給が高く、一見割りのいいアルバイトのように見える家庭教師や塾講師にも、ブラック化の波は押し寄せているという。「ブラックバイト対策弁護団」の久野由詠弁護士は次のように語る。
「バイトをやめようとすると、30~50万円もの高額な『違約金』を請求されることがよくあります。家庭教師を派遣する会社や塾は、教師や講師、つまりバイトをしている人が、途中で変わることを非常に嫌がります。「顧客である生徒が混乱する」「会社の信用を失わせる」など、損害賠償という意味合いで違約金を請求するわけです。
私たちブラックバイト対策弁護団が相談を受けた事例でも、やはり家庭教師のバイトをしていた大学生の男性が、何十万円単位の違約金を請求されました。その学生さんは3人の生徒を受け持っていたのですが、家庭教師としてバイトに行く日だけでなく、その事前の準備なども相当量あり、また生徒たちの成績も伸ばさないといけないなどのプレッシャーもあって負担が重くなっていたのです。
そうした重圧から、大学の授業に出られなくなるなど、自身の生活にも悪影響が出始めたために、バイトを辞めたいと家庭教師派遣会社に申し出たのですが拒絶されてしましました。心療内科の診断書も提出して、バイトを辞めたいと再度訴えたのですが『この程度では病気ではない』と突き返されてしまったうえ、『どうしても辞めるならば違約金を払え』と言われたのです。
しかし法律上は、契約期間内であっても『やむを得ない理由』があれば辞められますし、損害賠償を払う必要もありません。われわれ弁護団がそのように助言した結果、学生さんはバイトを辞めることができ、会社側も違約金請求を撤回しました。しかし、その学生さんの働いていた会社だけの問題ではなく、他の有名どころの同業企業も不当な違約金をバイト採用の際の契約書に書いています。そして、アルバイトする側も法律をよく知らないために、違約金に縛られて辞めたくても辞められない、という問題が後を絶たないのです」 <取材・文/志葉玲>