戦後70年「政府談話」に対抗する「民衆談話」の波は広がるか?

 この夏、安倍晋三首相による「戦後70年談話」が予定されるなか、安倍首相の政治・外交姿勢に危機感を持った人々による「民衆談話」発表などの運動が全国各地で活発化している。「民衆談話」とは、「政府談話」に対抗して、自分たちの手による「談話」を発表していこうという動きだ。

独自の「談話」を発表する動きが各地で

「民衆談話が、さらに全国からわき上がることを期待したい」と話す松永優・共同代表

「戦争による最大の被害者は民衆です。しかし政治の暴走を許し、ファシズムを支えてきたのも私たち民衆でした。国境や民族を超えてアジアの人々と信頼関係を築くメッセージ、不戦の誓いにしたい。この国の未来を決めるのは、時の権力者ではなく、私たち一人ひとりですから」  こう話すのは、「戦後70年 私たちの談話」草案を練り上げた「戦後70年 民衆談話の会」の松永優・共同代表。民衆談話の会は、沖縄県と埼玉県の新聞社で健筆をふるったジャーナリスト・近田洋一氏の遺志を継ぐ「月桃忌の会」のメンバーらが中心になって今年4月に立ち上げた。同じ埼玉の「比企市民ネットワーク」もこの動きに呼応して、独自の談話を出している。 「私たちの談話」草案の主な中身はこうだ。 「日本政府がいま為すべきことは、歴史の事実を素直に認め、侵略への深い反省と、被害者に対して誠実、かつ真摯に謝罪することであり、歴代内閣の平和への指針を一歩たりとも後退させてはなりません」と安倍首相に注文。  さらに沖縄・辺野古への新基地建設、原発、ヘイトスピーチなど日本社会が直面する問題にも言及。不戦の誓いとともに、「格差や不公平、隷従や暴力が生み出す〈憎しみの連鎖〉をなくす努力」などを一人ひとりに促している。

「私たちの談話」草案。海外メディアからの問い合わせが相次いでいるという

 賛同人には、埼玉在住の100歳のジャーナリスト・むのたけじさん、フォトジャーナリストの中村梧郎さん、代表作『夏子の酒』で知られる漫画家・尾瀬あきらさん、俳優の菅原文太さんの夫人・菅原文子さんらが名を連ねる。同会は6月30日夜、「賛同人と市民の集い」を日本プレスセンターで開く。  そして日中戦争の発端となった「盧溝橋事件」が発生した7月7日には、同じく日本プレスセンターでで記者会見を行い、国内外に発信する予定だという。談話文は、首相官邸、中国・韓国など各国の駐日大使館に英語・中国語・ハングルに翻訳して届ける。  同じ7月7日夜、大阪の市民団体「戦後70年東アジアの未来へ! 宣言する市民」も大阪市内で集会を開き、「自らの歴史に忠実に向き合い、過去の清算を果たす勇気を持ち、平和憲法を守り発展させることこそ、平和な未来への道だ」との趣旨の市民宣言を発表する予定だ。呼びかけ人のひとりである浜矩子・同志社大学大学院教授が講演する。  さらに、愛知の市民グループ「戦後70年市民宣言・あいち」が宣言文の準備を進めている。安倍首相に公式謝罪の表明と村山談話の継承も緊急要請する。宣言文は、首相官邸、「村山談話」以降の歴代首相、各国大使館に届ける予定だという。  どこまで「民衆談話」の波が広がるのか。それは多くの人の支持を受けられるのだろうか。安保法制の国会論戦と同様に、目の離せない夏が続きそうだ。 <取材・文・撮影/田中裕司(フォトプレス)>