「景気が悪い…」と嘆く経営者につける薬

【石原壮一郎の名言に訊け】~永六輔の巻~ Q:10年以上前から小さな広告会社を経営している。最初の頃は順調に仕事も入ってきていたんだけど、ここ数年、まあ景気が悪い。株が上がっても金持ちが喜ぶだけで、零細企業には何の関係もないんだよね。政治家はかけ声ばかりでアテにならなし。おまけに最近は素人っぽい会社がどんどんできてきて、横から客をかっさらっていく。困った時代だよ、まったく。こんな状況をどう抜け出せばいいんだ?(東京都・45歳・会社経営)

写真はイメージです。

A:株が上がって生み出されたはずのお金は、いったいどこに行ってるんでしょう。景気がいい会社や業界もたくさんあるはずなんですけど、そういうところの関係者のみなさんは静かですよね。零細喫茶「いしはら」も風前の灯ですが、そんなお店にせっせと通ってくだる町内のご隠居の尾藤さん、通称ビーさん(70代、男性)に聞いてみましょう。どことなく女性っぽい語り口ですけど、けっしてそういうご趣味はないそうです。  ぼくもね、若いときはいろんなお仕事をしたものよ。お洋服を売ったりファンシーグッズを扱ったり、そうだ、貸レコード屋さんをやってたこともあるわね。どれも長続きしなかったっていうか、変わり身が早かったっていうか。ほら、どんな商売にしたって、景気のいい時期なんてあっという間じゃない。長く続いている会社やお店って、ほんとすごいわよね。  それはいいとして、今の状況を抜け出したかったら、身もふたもなくて悪いけど、やり方を変えるかもっと頑張るか、どっちかしかないんじゃないの。景気のせいにしてても、何も始まらないわよ。私の尊敬する永六輔さんが、こんなことを言っているの。 「才能のある人や会社は不景気じゃないんです。不景気なところは才能が不景気なんです」  まー、さすが永さん、怖いことをはっきり言うわね。みんなそういう現実を直視したくないから、景気や時代のせいにしようとしているのに。あなただって、きっとそんなことはわかってるのよね。でも、どうやり方を変えればいいのか、どう頑張っていいのか、よくわからない。だからつい、景気がどうの時代がどうの政治家がどうのって言いたくなる。  あたしみたいな老いぼれに言われたくないかもしれないけど、まずは現実逃避の甘い誘惑を振り切って、世の中が不景気なんじゃなくて、自分の才能なり頑張なりが不景気なんだってことを認めたほうがいいんじゃない。とくに広告会社なんて才能やセンスが命みたいな業種でしょ。プレッシャーは大きいだろうけど、経営者なんだからしょうがないわよね。  まして、新興勢力の「素人っぽい会社」にケチつけてる場合じゃないわよ。単純に、そういう会社のほうがお客さんのニーズを満たしてるってことでしょ。永さんの本の中に、こんな言葉もあるわ。「若い芸人に文句をつけちゃいけません。若い芸人には同世代の若い客がいるんです。それでいいじゃありませんか」。自分が時代遅れだって薄々感じている人ほど、若い同業者にケチをつけたがるのよね。みっともないから、我慢したほうがいいわよ。  たしかに不利な要素はたくさんあるかもしれないけど、経験っていう数少ない武器を生かして、どうにか抜け出してちょうだい。抜け出せなかったら、後ずさりして別の場所に行けばいいのよ。いつまでも窮屈な思いをし続けるぐらいなら、意外とそのほうが楽かもね。

【今回の大人メソッド】目先の慰めが欲しいときは景気や時代を呪おう

 今の苦しい状況を景気の悪さや時代のせいにしたところで、何の解決にもなりません。それどころか本当の原因から目をそらしたり、行動を起こす前に満足してしまったりといった弊害も多々あります。しかし、人間はそう強くはありません。時には、景気や時代を呪って目先の慰めを得てもバチは当たらないでしょう。それが癖になるのはマズイですけど。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)