受動喫煙問題に革命的解決法が必要なのか?

 先月29日、これまで半年にわたって受動喫煙防止対策について議論してきた、東京都の有識者検討会が、「東京都への提言」をまとめて閉会した。  提言は「都は2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、対策を一層強化する必要がある」とする一方で、最も注目された受動喫煙防止条例の制定については、「受動喫煙防止のための明確なビジョンと対策を示し、取組の工程表を提示する。その工程表の進捗状況を検証しながら、18年までに条例化について検討を行う」とするに留まった。

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 実はこの検討会は3月31日に行われた第6回で閉会の予定で、そこで一旦提言がまとめられている。ところが、規制推進派委員から「罰則規定を伴った条例制定が必要とのメッセージを検討会のまとめとして記載すべき」といった不満の声があがり、今回の“延長戦”となっていた。一方では、様々な要因がある中でタバコを健康被害の元凶だと決めつけることに懐疑的で最も条例制定に慎重を唱えていた委員が辞任、今回の検討会には不参加という一幕も。  結論としては、規制推進派委員の意見を取り入れつつも、条例制定を前提とした文言は入れられることはなかった。  この提言について、座長の安念潤司・中央大学大学院教授は、「委員の誰にも満足いかないものであると思う。ただ、これほど妥協の余地なく先鋭的に対立する場合は、不満足を均衡させるしかない」と総括した。  また、安念氏は意見対立を「サイエンスとポリティクスの相違」と表現したが、検討会を通じて、まさにその通りだったように思える。医師である規制推進派委員は科学的見地からのみタバコのデメリットを説くのだが、法律家や社会学の専門家を中心とする慎重派委員は受動喫煙の害を肯定しながらも、拙速に全面禁煙化、従えなければ懲罰という手法が与える社会的影響を考えて、分煙も視野に入れつつソフトランディングさせるべきではないかという“ポリティクス”の必要性を訴えていた。  あるいは、「保守と革新」になぞらえることもできるかもしれない。一挙にこれまでを変革しようとするか、問題を認識しつつも漸進主義の立場をとるか。  確かに罰則規定を設けて強制すれば、はっきりと白黒はつく。それでも定着するまでの過渡期はあるわけで、飲食業界の大手資本は別として零細飲食店経営者などにとっては死活問題ともなり、少なからぬ社会的混乱を生むだろう。「多少の犠牲はやむを得ません」と明言するならまだしも、そうでなければ慎重に事を進めることが相応しいのではないか。歴史的に「革命」と呼ばれる政体転換は、ほとんどの場合、その後大きな社会的混乱を招いた。今回のような問題で、あえてそのような急進的な手法を採用する必要はあるまい。  また、年々喫煙者人口が減少しているとはいえ、現時点で約20%の喫煙者がいるのは事実。少数派の意見・権利を最大限考慮するというのは民主主義の原則でもある。  今回の提言は、悪く言えば“玉虫色の決着”で問題の先送りということになるのかもしれないが、それでも安念氏は会見で、国が積極的に取り組むべき問題であることを明確にしたこと、飲食店などで働く従業員の受動喫煙対策の必要性を文言に入れたことなど、一定の成果はあったと語った。  受動喫煙防止について徐々に事を進めていきましょうという姿勢を示した点では、おおむね妥当な結論と言えると思えるのだが。 <取材・文/杉山大樹>