クラウドファンディングの法改正で生まれる新しい資金調達の形

1.クラウドファンディングによる資金調達方法の役割

クラウドファンディング(1)クラウドファンディングとは  クラウドファンディング(Crowd Funding)とは、「資金需要者(新規・成長企業)と資金提供者をインターネットサイト経由で結び付け、多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組み」のことをいいます。  米国においては、「Kickstarter(キック・スターター)」や「Indiegogo(インディーゴーゴー)」といったクラウドファンディングサービスが人気を博し、今年も、スマートウォッチである「Pebble Time」が約1880万米ドル(約22億8000万円)もの額の資金調達に成功するといったニュースが話題になりました。 (2)クラウドファンディングが与える影響  そもそも今回の法改正の説明の前に、クラウドファンディングによる資金調達方法の活性化が、どのような影響を及ぼすかを説明していきます。  日本のスタートアップ業界の資金調達の時流を見るに、以前のように新規株式公開(IPO)の直前期~直前々期あたりのレイターステージ段階の会社に投資が集中する市況感ではなく、サービスの初期段階であるアーリーステージ段階での投資も増加傾向にあります。  インターネット企業によるエクイティ(≒株式)を用いた資金調達環境は、今なお良い市況といえます。そのため、マーケティング目的を除けば、このような投資環境の良い業種に関してはあえてクラウドファンディングを用いなくとも資金調達を達成することは難しくなくなってきているとも考えられます。

2.クラウドファンディングを活用しやすい業種

 それでは、クラウドファンディングによって変化の大きい業種とはどのような業種でしょうか?  資金調達が困難な市場を分析してみましょう。例えば、プロダクトの開発に初期投資が必要となるビジネスモデルの場合には、(よほどプロダクトのプロトタイプが優れているような例外を除いて)資金調達が難しく、かつ、それがマネタイズといった回収可能性が読めない業種であれば、猶更、資金調達は困難であると考えられます。  具体的には、ハードウェア、映画・映像作品・音楽のようなコンテンツ作品のような業種であり、実際に米国においてもこのような業種のエントリーが多いのはこのような点も作用していると考えられます。また、多数の者から資金調達する上で、プロダクトやコンテンツ作品は、多数の者からの支持を得やすい性質もあり、クラウドファンディングを用いた資金調達方法との親和性が高いことも挙げられます。  今までこのような初期投資を要する業種では、エクイティでの投資がつきにくく、また担保なく銀行からの借入なども行えなかった現実もありました。もっとも、クラウドファンディングによる資金調達が可能になった結果、一部の大手資本しか参入できなかったハードウェアビジネスや映画などのコンテンツ市場に、スタートアップ企業が参入しやすくなる効果を生み、業界全体として市場が活性化していくことが予想されているのです。

3.法改正によるクラウドファンディング市場の活性化

(1)金融商品取引法の改正  このようなクラウドファンディング市場に関しては、いわゆる投資型のクラウドファンディング(後述)に対して金融商品取引法による規制に服しますが、2014年5月23日、このような規制を緩和する金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成26年法律第44号)が成立し、いよいよ今年から施行されることとなりました。その内容を見ていきましょう。 (2)影響を受けるクラウドファンディングの類型  そもそもクラウドファンディングには、幾つかの類型に分かれて運用が行われています。今回の法改正によって影響を受ける類型と、受けない類型があるため、これを簡単に紹介していきます。 【1】寄付型 この類型は、資金提供者が無償で資金を提供するスキームです。勿論、寄付に該当しますので税務上の問題を抱えることになりますが、金融商品取引法の規制には服さないため、日本でも以前からこの類型に該当するクラウドファンディング業者が見られています。 【2】購入型 この類型は、投資のリターンとして、投資した資金を用いて開発された商品・サービスが提供されるスキームです。これも金融商品取引法の規制には服さず、日本のクラウドファンディング業者においても、この類型にあたる業者が多く存在しました。「CAMP FIRE」や「Readyfor?」もこの類型になります。 【3】投資型 最後に投資型ですが、投資のリターンとして、事業の収益が分配されるスキームです。この類型は、さらに細分化され、資金提供者が出資持分として株式を取得する「株式モデル」と、資金提供者が匿名組合契約等に基づき集団投資スキーム持分を取得する「ファンドモデル」が存在します。  今回の法改正により緩和される類型は、上記【3】投資型のクラウドファンディングです。従来は、基本的には【1】寄付型か【2】購入型のクラウドファンディングが多かったのですが、資金提供者が収益配分を受領できる可能性ある【3】投資型のクラウドファンディング市場の活性化が期待できることになります。  これによって、従来は半ばパトロンのような気持ちで、夢のある事業に支援するような形式が目立っていましたが、今後は資金提供者が投資として行うことが促進されますので、より事業としてのクラウドファンディングを用いた資金調達としても色が濃くなることが予想されます。

4.法改正とこれからの動向

(1)法改正内容のポイント  今回の法改正内容のポイントは、「参入要件の緩和」と「投資者保護のためのルールの整備」の2点にあります。  1点目の「参入要件の緩和」は、最低資本金を緩和させる点(株式モデルの場合、5000万円から1000万円に引き下げ)、「発行総額1億円未満、一人当たり投資額50万円以下」の勧誘であれば業種規制を課さないなどといった内容になっています。要件は、株式モデルとファンドモデルにより異なりますのでご注意ください。  2点目の「投資者保護のためのルールの整備」は、参入要件を緩和したことによりプレイヤーが増加し、消費者被害・トラブルを未然に防止する機能を有しており、「ネットを通じた適切な情報提供」や「ベンチャー企業の事業内容のチェック」などが課されることになります。 (2)今後の動向  これらの法改正の影響から、投資型のクラウドファンディングのサービスが増加していくことは間違いがありません。勿論、投資のため、資金調達した企業が想定していた収益を上げることができず、資金提供者の投資額が毀損するような事態も想定されます。投資である以上、当然です。  このようなリスクマネーの供給を増加させる一方で、これから投資者の被害が増加すれば、このように市場全体が毀損する可能性もある分野ですので、投資者保護のためのルールを遵守するための自主規制なども今後ますます明確化していくと予想されます。今後、投資型クラウドファンディングによって資金調達を行った企業が成長を遂げ、雇用と価値を生み出す存在に変貌するような好循環に繋がっていくことを期待しています。 【橘 大地弁護士】 株式会社サイバーエージェントに社内弁護士として勤務後、ベンチャー企業を専門とするGVA法律事務所に入所。現在、同法律事務所シンガポールオフィスの立上げにより、シンガポールに常駐。株式会社アップランド監査役就任(現任)。「The Singapore × Venture Times -東南アジアのベンチャー企業情報メディア編集長。
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