財政収支の黒字化が視野に入った?――現役財務官僚が語る日本財政の真実
2015.06.05
(※)本稿は個人としての意見であり、組織を代弁するものではありません。 【高田英樹(たかだ・ひでき)】 1995年に東京大学法学部卒業後、財務省(旧大蔵省)に入省。1997年から99年に英国留学。2003年から06年に、英国財務省で勤務。2009年に民主党政権下で新設された「国家戦略室」の最初の職員として抜擢された。主計局、主税局等で、主に財政政策に携わっている。個人blogに日英行政官日記(http://plaza.rakuten.co.jp/takadahmt)がある。 記事提供:ムーラン (http://www.mulan.tokyo/) 新世代のビジネス・ウーマンのためのニュースサイト。「政策決定の現場である霞が関、永田町の動向ウォッチ/新しいビジョンを持つ成長途上の企業群が求める政策ニーズを発掘できるような情報/女性目線に立った、司法や経済ニュース」など、教養やビジネスセンスを磨き、キャリアアップできるような情報を提供している ※本記事の関連記事も掲載中 【日本財政の『真実』】(1)~2015年度予算を読み解く http://www.mulan.tokyo/article/10/前回のコラムに引き続き、財政健全化計画について考えてみたい。 前回のコラムで、基礎的財政収支(プライマリー・バランス:PB)の黒字化は、一時的な経済好調によって瞬間風速的に実現すればよいものではなく、中長期的な財政健全化のためには、歳出・歳入の構造的・制度的改革により、安定的に財政収支を改善させることが必要であると述べた。 その意味をもう少し具体的に見てみよう。 2020年度のPB黒字化は、遠く、ハードルが高い目標に見えるが、実は比較的最近、PB黒字化が視野に入るところまで来ていたことがあった。 ⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=43568 図表1は、国・地方のPBの推移である(ただし、平成26年度以降は内閣府試算の数値)。 これを見ると、2003年度(平成15年度)あたりから2007年度(平成19年度)にかけてPBは大きく改善し、2007年度においては対GDP比1.1%にまで赤字が縮小している。 この当時は2011年度(平成23年度)までにPB黒字化との目標を立てており、その達成を見込むことのできるペースだった。 しかし、2008年度(平成20年度)、2009年度(平成21年度)と、PBは急激に悪化する。2008年秋に起こったリーマンショックによる世界的な経済危機により、日本経済も大きく揺らいだ。税収が激減する一方、景気対策のための大幅な財政出動も重なり、PB赤字は急速に拡大した。 2011年度の黒字化が達成不能となるのみならず、近い将来に黒字化を見通すことさえ難しい状態となったのである。 2003年度から2007年度にかけての財政改善の主な要因は、税収増である。図表2に示すように、この間、一般会計税収は43.3兆円から51兆円へと、7.7兆円増加した。そのうち、所得税が13.9兆円から16.1兆円へ、法人税が10.1兆円から14.7兆円へと増えたのが「太宗」を占めている。 ⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=43308 しかし、リーマンショック後の2009年度においては、一般会計税収は38.7兆円へと激減した。所得税は12.9兆円、法人税は実に、6.4兆円へと落ち込んだのである。 この経緯に見られるように、経済が好調であれば、短期的に税収は大きく伸びる場合がある。しかし、そうして伸びた税収は、ひとたび経済が失速すれば、急減するリスクがある。PB黒字化が視野に入った?
経済成長による税収増は、財政健全化に不可欠なものではあるが、それだけに頼るのでは、景気の振幅に対する脆弱性が高い。中長期的な財政健全化のためには、歳出・歳入の構造的・制度的改革によって、経済変動に対して頑健性の高い財政構造を作っておくことが重要なのである。 2015年度の税収見込みは54.5兆円と、ようやくリーマンショック以前の2007年度の水準を超える。そのうち、6兆円強が、消費税率の3%(うち国分は2.3%)引上げ分に相当する。 図表2に見るように、経済変動の下でも消費税収は比較的安定している。今般の消費税率の引上げは、歳入構造の頑健性を高めることに寄与すると期待される。 しかし、2007年度と比較して、一般会計歳出は13.4兆円増加している。うち、社会保障関係費の増が10.4兆円と、「太宗」を占める(いずれも当初予算ベース)。 経済の好調と後退のサイクルを経て、税収は戻ってきたが、その間にも高齢化と社会保障費の増加は続いている。 今や、2007年度と比べてもはるかに不利な状況からスタートしなければならない。 まさに、このように高齢化に伴い社会保障費が構造的に増えていく中において、安定的にその財源を確保する手段として、消費税率の引上げは行われたが、それでも社会保障費の伸びはその増収分を大きく上回る。 歳出面においても、社会保障を中心として、構造的な改革が不可欠だ。かつ、その改革は、一刻も早く進める必要がある。遅れれば遅れるほど、取り組まなければならない赤字は増えていくのである。【了】消費増税で頑健性の高い財政構造を作る
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