「自分は会社の歯車でしかない」という虚脱感からの逃れ方

【石原壮一郎の名言に訊け】~野原ひろしの巻~ Q:最近、会社に行くのが苦痛です。仕事への意欲もわいてきません。原因はわかっています。しょせん自分は、会社の歯車でしかないことに気づいてしまったからです。「この仕事は俺にしかできない」なんてのは錯覚で、会社にしてみたら私の代わりなんていくらでもいます。虚しくて仕方ありません。そんなふうに思う自分はヘンなんでしょうか。どうしてみんな、平気で会社に通えるのでしょうか。(大阪府・26歳・事務) A:歯車でしかないと言ってしまえば、まあそのとおりですね。町内の人たちの憩いの場である喫茶「いしはら」では、カウンターでコーヒーを飲んでいる常連さんが、悩める若者を個性豊かに叱咤激励してくれます。ちょうど、近所の歯車工場に勤めて30年の山田さんが来ているので、ご意見を伺ってみましょう。この若いの、なんか歯車が嫌みたいですよ。  近ごろの若いもんは、すぐそういうこと言うんだよな。歯車、いいじゃねえか。俺は好きだなあ、歯車。いい歯車はきれいなもんだぜ。だいたいお前、歯車をなめちゃいけねえよ。自分がしっかりしてねえと、隣りの歯車とうまくかみ合わないし、ひとつがダメになったら機械にしろ何にしろ動かねえんだから。  歯車が嫌だってんなら、何ならいいんだ? モーターか? シャフトか? 時計でいうなら針か? どれも、てめえの役割を果たしてるわけで、結局は似たり寄ったりじゃねえか。歯車がなきゃ時計の針は動かねえし、針が動いてくれなきゃ、歯車ががんばったってしょうがねえ。さてはお前、何を動かすために歯車をやってるのか、よくわかってねえな。  こないだよ、『クレヨンしんちゃん』が大好きな孫と話を合わせようと思って、しんのすけの父ちゃんの名言を集めた『野原ひろしの超名言』(大山くまお著、双葉社)って本を買ってきたんだけどよ、ひろし、いいこと言ってたぜ。 「一握りのエリートの後ろには、何千何万というオレたちのような人間がいるんだ! そして、『社会の歯車』『使い捨て』『操り人形』などと言われながらも、自分の夢だったり、家族や恋人の幸せだったり、みんなそれぞれの守るべき大切なもののために毎日歯を食いしばって必死にがんばっているのさ!」  本を読みながら、「いいぞ、ひろし!」って言っちゃったね。歯車だから虚しいとか、会社に行きたくないとか、甘ったれんのもいいかげんにしろ。歯車として胸を張って、誇りをもって、ひろしが言う「守るべき大切なもの」のためにがんばりゃいいじゃねえか。えっ、守るべきものなんていない? バカヤロー! 自分という大切なものがいるだろ!  おっと、歯車の話になると、つい熱くなっちまうな。だいたい世の中全体から見たら、どんな会社もどんな仕事も、まあ歯車みたいなもんだ。社長も総理大臣も歯車っちゃあ歯車だし、代わりなんていくらでもいるんだよ。仕事の喜びだのやりがいだのってのは、歯車の側で勝手に見つけりゃいいじゃねえのか。まずは、ひろしみたいに、仕事が終わってビール飲んで「あ~~~っ! 生きているってすばらしい~っ!」って叫んでくれよ。

【今回の大人メソッド】「ただの歯車」になるかどうかは自分次第

 仕事だけでなく社会の一員という点でも、誰もが「歯車」です。しかし、ただ回されるだけの歯車になるか、はりきって回る歯車になるかは自分次第。「どうせ歯車だし」とふてくされていても何も始まりません。そして、家族なり愛する人なり大切な友達なり、自分が単なる歯車ではない存在になれるつながりは、その気になれば誰もが手に入れられます。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
野原ひろしの超名言

「家族の理想のかたち」がここに