若い社員とぜんぜん話が合わない…先輩がやりがちな後輩との接し方
2015.04.18
【石原壮一郎の名言に訊け】~北野武の巻 ~
Q:今年も新入社員が入ってきた。よき先輩になって、あれこれ教えてやりたい気持ちはあるんだけど、ぜんぜん話が合わなくて困っている。話しかけても「はい」「いいえ」ぐらいの答えしか返ってこないし、向こうから話しかけても来ない。新入社員だけじゃなく、若いヤツらはみんなそうだ。せっかく打ち解けようとしてやってるのに。(東京都・35歳・営業)
A:親の心子知らずならぬ、先輩の心後輩知らず、といったところでしょうか。人と話を合わせる名人といえば、スナックのおねえさん。ちょうど隣りに、スナック「ふれんど」のユミさんがいらっしゃるので、ご意見を聞いてみましょう。
あらあら、ずいぶんおかんむりね。そんなに肩に力が入った先輩に話しかけられたら、私が後輩だったらすごく緊張しちゃいそう。でも、まるで自分の気持ちに応えない後輩が悪いみたいな言い方をしてるけど、本当にそうなのかしら。
あたしも、毎日いろんなお客さんと話を合わせるわけだけど、この仕事を始めたころは会話がすぐ終わっちゃって苦労したものよ。今思えば、空回りしてたのよね。ビートたけしこと北野武さんは、こんなことを言ってるわ。
「世代が違うと話が合わないなんて言うのは間違い。話が合わないんじゃなくて、話を引き出せない自分がバカなのだ」
この言葉には、続きがあるの。「年寄りとお茶を飲んでいて、『おじいちゃん、この茶碗は何?』って聞けば、何かしら答えが返ってくる。きっかけさえ作ることができれば、思いもよらない話が聞けることもある。相手はいい気持ちになれるし、こっちは知らなかったことを知る。相手が小学生だって同じだ」ってね。
「せっかく打ち解けようとしてやってるのに」と言っているあなたは、自分の接し方がいけなかったんじゃないかって、一度でも疑ったことはある? そりゃ、後輩と打ち解けようという姿勢は、先輩としてご立派な心がけよ。だけど、ご立派な心がけだったら、押し付けがましいやり方でも許されると思うのは、ちょっと身勝手よね。
先輩風を吹かして後輩に持ち上げてもらおうとするんじゃなくて、もっと謙虚になって「話を引き出せない自分がバカ」なんだと思いながら、もう一度、がんばってみたらどうかしら。あら、ごめんなさいね、バカだなんて言っちゃって。
それはそうと、北野武はこういうことも言ってるのよ。「年寄りとか中年とか若者とか、世代が違う奴同士っていうのは、常に戦うべきものなんだよ。世代が違うのに握手なんてしようとするから文化が衰退するんだ」ってね。うまく打ち解けられなかったら、こう思えばいいのよ。そして、ウチのお店に来て若い社員の悪口でも言ってちょうだい。話を合わせて、いっしょに怒ったり嘆いたりして差し上げるわ。
「思ったようにコミュニケーションが取れない」という悩みは、よく聞きます。そういう場合、無意識のうちに「どうして話を合わせてくれないんだろう」と、原因は相手にあると考えてしまいがち。自分が上司だったり先輩だったりするなおさらです。話を引き出せない、話を合わせられない自分がバカなんだと思うことで、活路が見い出せるでしょう。
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いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
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