人気のマリンスポーツ「SUP」。漁業関係者などとトラブルも増加

 大きめのサーフボードの上に立って、専用のパドルで海や湖の上を漕いで移動する「スタンドアップパドル(SUP)」は、習得にやや時間がかかるサーフィンよりは比較的容易にできるため、近年「波がなくても楽しめる」ことや「体幹のトレーニングになる」、「散歩気分で海上を動ける」などと大人気になっている。
SUP

photo by Ingrid Taylar on flickr(CC BY 2.0)

 特に、男女問わず楽しめるのも魅力で、海外ではスーパーモデルや女優がSUPの上でヨガを行うSUPヨガなどに熱中していたりといった姿も報じられているほど。かと思えば、サーフィンのように波に乗り、アクションを楽しむこと人もいれば、SUPで沖に出て、板の上から釣り糸を垂らすSUPフィッシングに高じる人もいたりと、さまざまな楽しみ方ができるのが魅力なのだ。  しかし、ここに来て漁業関係者やサーファーの間から苦情の声も増え始めているという。  神奈川県の漁業関係者は語る。 「漁船が出るのは主に早朝の時間帯です。しかし、この時間帯にちょうど朝早いSUPが沖に出ていることが多い。薄暗い中で、船よりも位置が低いSUPは視認性が悪いためかなり危険なんです。また、そうでない時間でも漁船の航路付近にいられることもあり、同じように危険だと言えます」  漁業関係者がこうこぼすのも無理はない。というのも、漁船がSUPと事故を起こした場合、どんなに相手の視認性が悪かろうが漁船側が過失責任を負う場合が多いのである。にも関わらず、海上での航行ルールについいてはSUPユーザー側に圧倒的に周知されていないのである。  SUPフィッシングについても問題があるという。 「普通に釣りをする分には構わないのですが、中にはアワビやサザエを密漁する人もいる。密漁する人は罪の意識はないのかもしれないけど立派な犯罪ですよ……」  アワビやサザエのような高価な貝はまだしも、うっかり採ってしまいがちなわかめやてんぐさなどの磯の海藻も第一種共同漁業権の対象になるため、浜に流れ着いたものを拾うくらいならば問題ないが、わざわざ潜って鎌で採ってしまうのは漁業権侵害として告訴される可能性もあるという。

サーファーと衝突する事故も

 また、サーファーの間からもこうした声が聞かれる。都内にあるサーフショップ店長A氏は語る。 「SUPは通常のサーフィンでは乗れないようなうねりの段階から波を取れるため、沖でたくさん波に乗られると他のサーファーに波が回ってこなくなってしまうんです。また、近年サーフスポットは混雑が激しいですが、特にSUPのような大きくて重い板の場合、コントロールできない初心者は非常に危険です。昨年もSUPと衝突した女性サーファーが不幸にも命を落とす事故がありました」  こうした現状について前出のA氏は続ける。 「SUPは海の新しい楽しみ方としてとても魅力的です。そのため、今までサーフィンなどに興味はあってもできなかった人が楽しめるようになったのは悪いことだとは思いません。しかし、手軽にできるという点だけでなく、海のレクリエーションをやるにあたってのルールやマナー、注意点などを我々販売者側も購入者にきちんと伝えるべきだと思います。ただ、うるさく言う店や“先輩”的な存在もどんどん減っているのが現状です。今の時代、ネット通販で買う人も多いですし……」  せっかく定着し始めた新たなスポーツ「SUP」。海のレクリエーションとして魅力的なのは事実なので、これからもますます愛好者は増えるだろう。しかし、だからこそ販売者はルールやマナーを周知させ、ユーザーもそれを守ることで、漁業関係者や他のサーファーと上手に共存し、新しいホビーを楽しんでもらいたい。 <取材・文/HBO取材班>