現役財務官僚が語る日本財政の真実――2015年予算を読み解く
2015.03.15
(※)本稿は個人としての意見であり、組織を代弁するものではありません。 【高田英樹(たかだ・ひでき)】 1995年に東京大学法学部卒業後、財務省(旧大蔵省)に入省。1997年から99年に英国留学。2003年から06年に、英国財務省で勤務。2009年に民主党政権下で新設された「国家戦略室」の最初の職員として抜擢された。主計局、主税局等で、主に財政政策に携わっている。個人blogに日英行政官日記(http://plaza.rakuten.co.jp/takadahmt)がある。 記事提供:ムーラン (http://www.mulan.tokyo/) 新世代のビジネス・ウーマンのためのニュースサイト。「政策決定の現場である霞が関、永田町の動向ウォッチ/新しいビジョンを持つ成長途上の企業群が求める政策ニーズを発掘できるような情報/女性目線に立った、司法や経済ニュース」など、教養やビジネスセンスを磨き、キャリアアップできるような情報を提供している ※本記事の関連記事も掲載中 【日本財政の『真実』】(1)~2015年度予算を読み解く http://www.mulan.tokyo/article/10/2015年度予算の編成において、大きな焦点となったのは、社会保障費の取扱いだ。 予算編成が佳境に差し掛かる2014年11月に、安倍総理は、2015年10月に予定されていた消費税率の10%への引上げを1年半延期することを決めた。これは当然、予算編成の方向性に大きな影響をもたらす。 消費税率を5%から8%へ、8%から10%へと引き上げることによる増収分は、全額、社会保障費に充てられることが法律上定められている。5%から8%への3%の引上げによる増収額は、2015年度時点で、国・地方合わせて8.2兆円だ。10%への引上げが行われ、その効果がフルに実現される段階では、5%分の増収額は14兆円と試算されている。 2015年度における8.2兆円の使途は、以下のようになっている。まず第一の使途として、3兆円が、基礎年金の財源に充てられる。公的年金制度については、2004年に大改正が行われ、長期間にわたり安定的に運営していくための様々な仕組みが整備された。だが、この改革パッケージには、重要なピースが一つ欠けていた。それは、基礎年金国庫負担の財源である。 基礎年金は従来、3分の1が国庫負担、すなわち税金投入で賄われていたが、制度の長期・安定的な運営のために、この割合を2分の1に引き上げることが必要とされた。しかし、国庫負担割合を増やすための財源確保については、後の宿題とされたのである。 2014年4月、消費税率の引上げが行われ、基礎年金の恒久財源が確保されたことにより、10年越しに、年金改革の「欠けたピース」が埋められることとなった。これは、あまり報じられていないが、消費税率の8%への引上げによる大きな成果といってよい。欠けた「ピース」を埋める
第二に、8.2兆円のうち1.35兆円が、「社会保障の充実」に用いられる。これは、現在よりも高いレベルのサービスを提供する、いわば社会保障の「純増」だ。例えば、保育の質・量の改善がこれに当たる。 第三に、3.4兆円が「社会保障の安定化」に充てられる。これはやや分かりにくいが、既に提供されている社会保障サービスについて、その財源の穴を埋めるものだ。借金によって負担を後代へつけ回しをしている部分について、安定した財源を確保することによって、制度の持続性を高めることができる。 この部分については、今既に受けているサービスの水準を高めるものではないため、消費税の負担をした割には、それが社会保障に充てられているという実感をしにくい。 だが、これは次のように理解すべきだ。高齢化等に伴って社会保障費が増えていくのは、昔から分かっていたことであり、本来、その都度、財源の手当てを行うべきだった。しかし、様々な理由で、財源の手当ては遅れてきた。だが、必要な年金や医療費は支出せざるを得ない。そのため、「給付先行型」で社会保障の拡充が行われてきたのが実態だ。 その財源の一部が後から追いついてこようとしているのであり、「給付先行型の社会保障と税の一体改革」とも言える。 その他、消費税率引上げによる物価上昇を反映した社会保障費の増として、0.35兆円が支出される。物価上昇の分、年金給付額が引き上げられることや、消費税負担の増加を反映して診療報酬を引き上げることなど、いわば必然的な支出増だ。3.4兆は社会保障の安定化に
2015年度において、仮に予定通り消費税率が10%に引き上げられるとしたら、前述の「社会保障の充実」の財源は、1.35兆円から1.8兆円に増えることとなっており、それを前提に様々な社会保障の充実プログラムも検討されていた。 しかし、予算編成の最中に、消費税率の10%への引上げは延期することが決定される。これに伴い、社会保障の充実をどのように行うかが問題となったが、大局的な政治判断として、1.35兆円の枠は守ることとなった。 つまり、赤字国債を出してでも、1.8兆円分の「充実」を行うという方針はとらなかったのである。消費税率の引上げと社会保障充実を対応させる、「社会保障と税の一体改革」の枠組みを維持したものといえよう。 ただし、その1.35兆円の枠内で、具体的にどのような「充実」を実施するかについては、優先順位付けを行うこととなった。その結果、子ども・子育て支援については、2015年4月からの「子ども・子育て支援新制度」の実施をはじめ、消費税率が10%に上がることを前提とした施策をすべて予定通り行うこととしたのである。これにより、待機児童解消加速化プランなどは着実に進められることとなった。 その分、しわ寄せされる分野もあり、低年金者への追加的な給付金といった施策は、10%引上げ時まで先送りすることとなった。 財源が限られる中で、子ども・子育て支援を優先したことは、ひとつの政策判断として評価できるのではないだろうか。【了】「社会保障と税の一体改革」の枠組みは維持
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