のちのち面倒に巻き込まれない「人の頼り方」とは?
2015.03.11
起き姫-口入れ屋のおんな』(杉本章子著/文藝春秋)。口入れ屋は今で言う、人材派遣会社のようなもの。事情を抱え、仕事を求める人々がひっきりなしに訪れ、厄介なもめごとや仕事のクレームが持ち込まれることも多い。人づき合いのさじ加減のヒントがそこかしこに登場する。
先代の女主人であるおとわは乳母から口入れ屋に転身したという、異色の経歴の持ち主。苦労人ならではの知恵を、主人公・おこうに教えこむ。例えば、大晦日のすす払い。隣近所に手伝いを頼もうとするおこうを制し、おとわは町一番の商家である亀屋に頼むことを勧める。
「裏やお向かいを頼るのも、一度や二度はいいでしょう。でも毎年毎年甘えられますか。まあ年に一度のことなんだしと、面の皮千枚貼りを決めこんだとしても、では先様からなにか面倒な頼みごとを持ち込まれたとき、すんなりと断りが口に出せますか」
頼みごとをするときはつい、できるだけ気軽な相手に頼みたくなる。しかし遠慮がない分、気遣いがおろそかにもなるリスクもはらんでいる。むしろ、多少気兼ねするような緊張感のある相手に頼んだほうが、しっかり礼を尽くすことになる。仲の良い同僚や後輩に甘えるより、思い切って部長や役員の胸を借りたほうがいいというわけだ。
自分よりずっと立場が上の人にお願いごとをするのは、恩を着せられるリスクを回避するという意味合いもある。
「大きなお店ですもの。質素に暮らしている口入れ屋に、煤掃きや正月のことでのちのち恩を着せてくることはありますまい」と見るからこそ、おとわは亀屋を頼るのだ。
頼んだ後のことまであれこれ考え、行動に移すのは少々面倒にも思える。しかし、「殻に閉じもってばかりいちゃ、世渡りなんてできません」というのが、おとわの持論。「いつでも返せる小さな義理なら、かまいませんのさ」と背中を押す。
誰しも頼られると悪い気はしないもの。ときにはとくに助けがいらないような場面でもあえて頼り、すかさず義理を返していくのも一案だ。小さな義理のやりとりは人間関係を強固にする。<文/島影真奈美>
<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2015』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。@babakikaku_s
― 【仕事に効く時代小説】『起き姫』(杉本章子) ―
他人に頼るのは案外難しい。
やみくもに借りを作ると、面倒なことにもなりかねない。かといって、あれもこれもと自分で抱え込むと、仕事が回らなくなる。周囲を巻き込み、要領よくお願いごとをするのもマネジメント能力のうち。お互い余計なストレスを発生させることなく、他人に頼るにはどうすればいいのか。
奉公人を商家に斡旋する“口入れ屋”で采配をふるう女主人の人生模様を描いた『
『起き姫 口入れ屋のおんな』 大店からの離縁を機に口入れ屋の女主人へ |
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