「物言えぬ空気」にジャーナリストたちが声明を発表。いつから政権批判はタブーになった?

「物言えぬ空気を作るな」  中東の過激派「イスラム国」による邦人人質事件をきっかけに、「政権批判を自粛すべきでない」と考えるジャーナリストや学者らが2月9日、声明を発表した。声明は「非常時こそ、問題の解決には多面的な見方、考え方が必要だ」と訴えている。

著名な小説家や映画監督も賛同

翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明

「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」会見の様子=2月9日、都内で

「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」には現在、約1200人が賛同。この中には社会学者の宮台真司氏や、映画監督の是枝裕和氏、小林聖太郎氏、芥川賞作家の平野啓一郎氏、ハードボイルド小説家の馳星周氏らも名を連ねている。  声明は、イスラム国による2邦人の殺害を糾弾。その上で、「政権批判はテロリストを利するだけ」などとする非難に対して「『非常時』を理由に政権批判を自粛すべきという理屈を認めれば、原発事故や大震災などを含めあらゆる『非常時』に政権批判ができなくなる」と反論。結果的に翼賛体制の構築に寄与せざるを得なくなるだろう、と警鐘を鳴らす。  例えば『朝日新聞』は今年2月、イスラム国撤退後のシリアの都市に入り、現地の様子を報じた。これに対して読売・産経の各紙は、「外務省が渡航しないよう要請している地域で取材した」との論調で報じている。  紛争地域の取材は安全確保が第一なのは言うまでもない。しかし、報道機関やジャーナリストが現地取材を行うこと自体を、政府の立場に沿って批判的に報じるとすれば、それはジャーナリズムが自らの手足を縛ることにはならないか。

「報道が体制に迎合している」

 声明には元経産官僚の古賀茂明氏も賛同し、会見場に姿を見せた。古賀氏は「報道への抑圧は3段階ある。ホップが報道の自由への抑圧。ステップでは報道自身が体制に迎合。そしてジャンプは選挙で独裁政権が誕生すること。今はステップまで来ている」と話した。  そして「正しい情報が国民に伝わらなければ、国民は正しい判断ができなくなる」と述べ、報道が萎縮する傾向を危惧。今回の声明が「報道機関などの組織に属する人への激励になる」とした。  NHKのプロデューサーは声明に賛同したが「番組制作に圧力がかかる可能性がある」として、会見の場で名前を明かさなかった。同氏は「黙っていることは同意とみなされる。危険な世の中になりつつある」とコメントを寄せた。  同じくNHKのディレクターは「2邦人の殺害は本当に残念だったが、この国がいかに個人を守らないのかがよくわかった出来事だった。のみならず、政府はこれを利用して戦争できる国にしようとしている」と危機感を示した。  ジャーナリストの今井一氏は賛同人のとりまとめに尽力。「自粛ムードに抗する言論人を応援したい。賛同する決心がつくまで、何日も悩んだという人もいる。それだけ言論への圧力が強い」と話す。  報道内容への検証や批判は必要だ。しかし報道することへの圧力や自粛ムードが強まれば、私たちが得られる情報の幅は狭まっていくのではないだろうか。 <取材・文・撮影/斉藤円華>