中国最大の祝日「春節」後に潰れる店が多い理由

春節

街中がネオンで輝く中国最大の祝日春節(旧正月)

 2月19日から旧正月の「春節」を迎え、お祝いムードに包まれる中国。全土を挙げて爆竹を鳴らし祝賀ムードに包まれるている。  中国の春節休みは、平均1週間。長いところは2週間休むところもある。飲食店は、大型店やFC店以外、3分の2くらいが休んでおり、企業では日本など海外向けの業務をしているところ以外は休み。ビジネス街は閑散としているが、人が集まる場所では爆竹を鳴らし祝賀ムード一色となる。  そんな中、中小飲食店や企業の経営者たちは眠れない夜を過ごしているかもしれない。  飲食店の入り口には、春節休みを伝える張り紙があり、「17日から春節休み。初八営業開始」などと、新暦と旧暦を混ぜた表記もあり、一瞬何日か分からない。それくらいならまだいいのだが、店によっては「春節休み」の告知のみで、いつから再開するかわからないなんてこともあるのだ。 ⇒【画像】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=26546  というのも、中国では一般的に春節前に年1回のボーナス(赤包)が支給される。もらったボーナスを持って各自故郷へ帰省するわけだが、そのまま音信不通になって戻ってこない人が少なくないのだ。  そのため、春節明けに店を再開しようにもスタッフが足らず、店が開けられなかったり、中には、飲食店の要である料理人が蒸発した場合などは、営業できず廃業する店もある。そんな春節廃業、閉店現象がこの時期非常に多くなるのだ。  以前、大連でパン屋を経営していた女性経営者によると、春節後に4人のスタッフの内3人が休暇後戻ってこず店が営業できずそのまま廃業を余儀なくされたと話す。  戻ってこなかった従業員はどうしているのか? 多くの場合は転職だ。春節時期は、1年で最も人材が動くとされ、引き抜かれたり昇給を目指して転職する人が後を絶たないのだ。  音信不通のような辞め方をするのは、もし、転職する意思を伝えると経営者に止められるのを恐れるためだ。筆者が在中の外資系企業で人事を務めていたとき、退職理由として聞いたのは、母親が病気になったから故郷に帰って看病する、日本への留学が決まったから、帰省して親戚の会社を手伝うからなど、いずれも分かりやすい嘘だったりした。  多くのケースは、帰郷したまま戻ってこないというよりは、大連などそれまで働いていた都市へ残り、少しでも条件のよい会社へ転職していた。地方に大都市と同水準の給料を出せる会社は少ないだろうし、知人などの人脈は、すでに故郷にはなくコネも少ないからだ。  というわけで、しばらくして、故郷へ帰ったはずの退職者と街中で再会することも珍しくない。すっとぼけて確か故郷に帰ったよねと聞くと、「母がよくなったのでまた戻ってきました」などと答えるのである。 ⇒【画像】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=26548  IMFの統計によると中国の2013年の失業率は4.1%と比較的に低い。しかし、これには統計のマジックがあり、この数字には日本同様に第一産業従事者は含まれていない。中国政府発表によると中国は2012年に農村籍(戸籍上の農業従事者) の割合は47.4%というが、すなわち、約50%の人たちは、失業率には数えられていないわけで、そのため、現実的には発表数字の2、3倍の失業率になると指摘する専門家もいる。なにしろ、中国の労働者には、すでに土地を手放し、小作人になったり、都市へ出稼ぎに来る「農民工」がと呼ばれる人が多い。前出のような統計なので、彼らについては、「失業がない」という前提に立った数字なのである。  実際のところ中国も就職は結構厳しい状況で、四大(本科)卒でも新卒就職率は低く5割程度と言われるほどだ。そんな職業難な中国なので、転職チャンスを逃すまいと必死になるのは無理はないのかもしれないが……。  ところで、春節前のボーナスだが、連休後に渡すことはできないのだろうか? 大連でアウトソーシング企業と飲食店を経営する経営者へ尋ねてみると、「春節休暇後に渡すこともできますが、業績悪化を心配させるし、休みの後に渡しても辞める人は辞めます」ということだった。  ボーナスは、会社の業績に応じて支給されるためボーナスの額=会社の業績としてスタッフ同士で噂し合っているのだ(中国では従業員同士が給料額を見せ合うのが一般的)。もし、ボーナスが少ないとこの会社は大丈夫か……と先行きを心配して転職を考え始めるというからいずれにしろ辞める確率は高くなるのである。  花火や爆竹がド派手に鳴り響くめでたい春節の中で経営者の悩みは尽きそうもない。 <取材・文・撮影/我妻伊都>