終わらぬ原発災害被害、そしてコロナ禍。その中での東京五輪開催は人道にもとる愚行<元スイス大使 村田光平氏>

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厳しい論調が増る世界からの「東京五輪」への視線

―― 村田さんは元スイス大使という経験を活かし、東京オリンピック・パラリンピック(東京五輪)の問題点を積極的に国際社会に向けて発信してきました。日本はコロナ禍の中で東京五輪を強行しようとしていますが、海外はこれをどのように見ていますか。 村田光平氏(以下、村田) 国際社会は東京五輪に懐疑的です。たとえば、今年の1月にIOC(国際オリンピック委員会)の最古参委員であるディック・パウンド氏が、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて、東京五輪が開催される確証はどこにもないと述べました。  同じく1月に、イギリスの有力紙ガーディアンが、日本におけるコロナの感染状況は深刻であり、日本国民の間でも五輪反対が増えているとして、五輪開催に疑問を呈しました。アメリカのニューヨーク・タイムズも、五輪開催の見通しは日々厳しさを増しており、第二次世界大戦後、初の中止に追い込まれる可能性があると指摘しました。  また、東京五輪の放映権を持ち、開催の行方を左右すると見られているアメリカのテレビ局NBCも、東京五輪に批判的な記事をウェブサイトを通して発信しています。東京五輪組織委員会の森喜朗会長(当時)が女性蔑視発言をした際には、森氏の更迭を求める記事が掲載されました。福島県で聖火リレーが始まると、元プロサッカー選手でアメリカのパシフィック大学教授であるジュールズ・ボイコフ氏が、聖火は消されるべきだとする厳しい批判をNBCに寄せました。  2月には、アメリカのバイデン大統領が、東京五輪の開催決定は科学に基づくものでなければならないと述べました。お金が儲かるから五輪を開催するとか、国家のメンツがあるから開催を強行するといったことは許されないということです。これは日本政府に対する厳しい批判とも読めます。  つい先日には、北朝鮮が自国の選手たちを守るという理由で東京五輪不参加を表明しました。現在の感染状況を見る限り、同じような決定をする国が出てきたとしてもおかしくありません。昨年3月、カナダのオリンピック委員会(COC)が新型コロナウイルスのリスクを理由として東京五輪には選手団を派遣しないと表明したことが想起されます。  おそらく今月予定されている日米首脳会談でも東京五輪は重要なテーマの一つになりますから、そこでバイデン大統領がどのような発言をするかに注目する必要があります。(※HBO編集部注:4月16日に会談は行われ、バイデン大統領は東京五輪開催について明確な支持を避けた)

原発災害からの復興はいまだ終わっていない

―― 村田さんはコロナ禍の前から一貫して東京五輪に反対していました。 村田光平氏(以下、村田) 私が東京五輪に反対する最大の理由は、東京五輪が福島の放射能の危険性などの原発問題を無視するという許しがたい不道徳の上に成り立っているからです。これほど人道にもとることはありません。  世界各国の医療関係者が参加する国際組織「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」は、福島原発事故はまだ終わっていないという認識から、東京五輪を「放射能オリンピック」と呼び、批判しています。実際、いまなお原発の危険性は取り除かれていません。福島第一原発の建屋は劣化が進んでおり、専門家の中には、大きな地震によって建屋が崩壊するリスクがあると指摘している人もいます。  こうした状況の中で五輪を推し進めるなど、決して許されることではありません。五輪と原発は経済重視、生命軽視が示す通り表裏の関係にありますが、責任者はいまなお原発をあきらめない向き同様に「人間失格」のそしりを受けかねません。  しかし、すでに潮目は変わっています。東日本大震災から10年となる今年の3月11日、細川護熙氏、村山富市氏、小泉純一郎氏、鳩山由紀夫氏、菅直人氏の5人の元首相が脱原発宣言を行いました。3月18日には水戸地裁の女性の裁判長が東海第二原発の運転差し止めを命じました。2017年、前橋地裁での集団訴訟で国及び東電に損害賠償を命じたのも女性判事でした。  こうした事実を英文で発信したところ、大きな反響が見られました。ある海外の有力者からは国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏に報告したという連絡を受けました。特に女性裁判官の活躍に感銘を受けたと見られます。  「天地の摂理は不道徳を許さない」というのが私の信念です。不道徳に基づく行為は、必ず断罪されます。これは歴史の法則と言えましょう。それゆえ、東京五輪もきっと中止に追い込まれるはずです。私はそう確信しています。 (4月9日 聞き手・構成 中村友哉) <記事初出/月刊日本2021年5月号より>
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。


月刊日本2021年5月号

【特集】主権を失った日本
【特別対談】徹底討論 選択的夫婦別姓
【海外情勢分析】ミャンマー
『宗教問題』編集長 小川寛大
【東京五輪】


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