東日本大震災後10年間の「日本の災害」を伝える写真展で、鳩山由紀夫・元首相が語る「力を結集していかなければ」

津波で亡くなった妻にしがみつく夫の写真に、じっと見入る

日本各地で起きた災害の写真にじっと見入る鳩山由紀夫・元首相

日本各地で起きた災害の写真にじっと見入る鳩山由紀夫・元首相

 津波に飲み込まれ遺体となって発見された妻にしがみつき、人目もはばからず慟哭する男性の写真。タイトルには「唯一残された夫婦の記録」とある。宮城県南三陸を襲った津波で妻を亡くし、家も流され、思い出の品が何もない。男性は写真を撮った野澤亘伸氏に「この写真だけが、私たち夫婦の唯一の記録なんです」と連絡してきたという。  この写真を前に立ち止まり、じっと見入って「感銘を受けた」とつぶやいたのは元首相で、現在は公益財団法人「友愛」理事長の鳩山由紀夫氏。
この写真展では東日本大震災をはじめ、その後10年間に全国各地で起きた災害のリアルな姿を伝えている

この写真展では東日本大震災をはじめ、その後10年間に全国各地で起きた災害のリアルな姿を伝えている

 鳩山氏が訪れたのは、4月20日から開催された写真展「災害列島・日本」だ。この写真展では、10年前の東日本大震災を含め、それ以降に日本各地で起こった災害を、49人の写真家がその目でとらえた61点を展示している。  熊本で起きた大地震や、九州や中国地方への集中豪雨、北海道地震。さらには異常気象による巨大台風や土砂崩れ、洪水、河川の決壊、氾濫、浸水。異常な寒波や豪雪被害。そして地球規模で蔓延するコロナ禍など、日本列島は複合災害の連続である。
写真展のオープニングであいさつする鳩山氏。右は新藤健一氏

写真展のオープニングであいさつする鳩山氏。右は新藤健一氏

 オープニングのあいさつで鳩山氏は「日本という国が災害の多い国だと理解してもらうことが大事。防災対策などをもっとしっかりしておけば、災害も軽減されていたかもしれない。毎年のように起こる災害に対して、警鐘を鳴らしていただく意味でも、意義のある写真展だと思います」「日本を災害から守るために力を結集していかなければならない」と訴えた。

“地球異変”とも言うべき災害の連鎖・大規模化が加速している

1号機の排気筒からベント(排気)作業と思われる白煙(水蒸気)を確認

3月12日14時40 分、福島第一原発の周辺を小型機で飛行していると、1号機の排気筒からベント(排気)作業と思われる白煙(水蒸気)を確認。1号機建屋はこれから約1時間後の15時50分に爆発、世界を震撼させた=2011年3月12日、福島県双葉郡上空(撮影:石川 梵)

 写真展には、田沼武能、石川文洋、石川梵、大石芳野、野町和嘉、江成常夫、桑原史成、細江英公、須賀次郎、中村征夫、尾崎幸司、熊切圭介、権徹、小松健一各氏ら49人が名を連ねる。それぞれが被災地で取材を重ね、個々の視点で災害をとらえてきた。
海岸に押し上げられた大型漁船

海岸に押し上げられた大型漁船=2011年3月下旬、宮城県東松島市(撮影:桑原史成)

 石川梵氏は、3月12日に調布飛行場に残っていたセスナ機をチャーターし、福島第一原発上空から撮影。桑原史成氏は、宮城県東松島で海岸に押し上げられた大型漁船をモノクロームで表現。中村征夫氏は、三陸の海に潜り海中の被害状況を。福島第一原発沖の海に潜った須賀次郎氏は、今も潜水調査を続けている。大石芳野氏は、飯館村に住む農夫の10年を追う。
佐藤義明さんは声をあげて泣く

「飯舘村はもうなくなる……」。これじゃ、子も孫も帰ってこられない。「東電はきちっと責任をとってもらいたい」と、佐藤義明さんは声をあげて泣く=2012年3月11日、福島県飯舘村(撮影:大石芳野)

 この写真展を企画したキュレーターの新藤健一氏は、「2011年3月11日に起こった東日本大震災から10年。この間、日本列島の各地で大災害が頻発してきた。これらはいずれも“複合災害”で、過去の単純な災害対策では解決できない状態にある。気候変動の影響による異常気象に加えて、地震や津波、火山の噴火など“地球異変”とも言うべき災害の連鎖・大規模化が加速している。自然災害は不可避ながらも、少しでも人的・物的被害を軽減するために、人類の英知を結集することが今、求められている」と問題提起している。   写真展の様子 今回展示された写真も含めて183点がおさめられている写真集『災害列島・日本』(扶桑社刊・税込1980円)も今年3月に刊行された。写真展は、東京都千代田区一番町の日本カメラ財団JCII地下一階ギャラリー「JCIIクラブ25」で4月25日まで。 <文・写真/清藤拡文>
東日本大震災から10年 災害列島・日本

49人の写真家が伝える“地球異変"の記録